北欧から地球にやさしい暮らしを学ぼう(後編)

再使用エネルギー 循環型経済

サステナブルで世界最先端を行く北欧の知恵をIKEA横浜から学ぶ後編。人気のミートボールを植物由来で再現するフード革命や、先進的な家具買取りサービス、EVトラックによる配送など、驚きのサステナブルな取り組みが満載です。食品ロス削減や資源循環の工夫から、私たちの暮らしを変えるアイデアを探ります。

植物由来の食材で名物料理を再現

前回の記事(前編)では、IKEA横浜(横浜市都筑区)による環境に配慮して工夫された商品や、店内のディスプレイ(展示方法)などを中心に紹介しました。
今回の記事(後編)では、 そうしたカスタマー向けのサービスだけでなく、IKEA横浜が店舗運営において行っている、地球にやさしい様々な活動についてもお伝えします。

地球にやさしく、しかもユーザビリティに優れた商品を提供することでサステナブルな暮らしを実現するというアプローチは家具も食料品も同じ。

IKEA横浜をはじめ、イケア店舗では、レストランやフードマーケットなど、食料品の販売にも力を入れています。せっかくの来店者が空腹を感じて帰ってしまうことがないようにという創業者の考えをもとに設置されるようになったそうです。そして、ここで販売されている商品にも、地球にやさしい暮らしを実現するためのアイデアが盛り込まれています。
IKEA横浜のマーケットマネジャー、菅野秀紀さんは次のように語ります。

菅野:いま我々は植物性由来のプラントベースフードの開発を熱心に進めています。レストランでは、かねてからスウェーデンの国民食であるミートボールをご提供していますが、イケアでは植物性由来の食材(エンドウ豆)を用いたプラントボールも開発しました。こちらは見た目だけではなく味や食感もそっくりに再現しており、とても好評いただいています。

プラントベースのミートボールは、あらかじめ植物由来と言われなければ分からないほど、再現度の高い味でした。

食料生産は何であっても環境に影響を与えるものですが、とりわけ畜産は、広大な土地や大量の餌、水などを必要とし、多量の温室効果ガスを排出することで知られています。そうした課題に取り組むため、イケアではプラントベース食品の比率を従来の肉料理よりも増やすことで、消費者にさまざまな選択肢を提供しているそうです。現在は人気メニューのソフトクリームもプラントベースとなり、牛乳から豆乳へと原材料が変更されています。こちらも味や食感は従来のものに限りなく近く、価格は変わらず50円とのこと。食料品でも家具やインテリア商品などと同様、消費者がとくに意識することなくサステナブルへ貢献できるようになっています。

菅野:サーモンなども北欧を代表する食材として有名ですが、イケアでご提供する商品はすべてMSC/ASC認証を受けたものです。これは水産資源や環境に配慮した漁業によって獲られた水産物、あるいは環境への影響を最小限に抑えた養殖場で生産された水産物であることを証明するものです。またイケア・ジャパンでは2018年からAIツールを導入するなどして食品廃棄物を削減する取り組みも行っています。最新の数字では2018年と比較し、食品廃棄物発生量を57.3%削減することができました。

IKEA横浜では地域と連携した資源のサーキュラー​エコノミー(循環型経済)の構築にも取り組んでいると語るのはローカルマーケティングマネジャー 若林有紀さん。

若林:横浜市との連携協定のもと、IKEA横浜から排出された抽出後のコーヒーかす約100㎏を週に一度、近隣の農家さんにお渡しし、肥料や除草剤として活用いただいてるんです。また、そうして育てられたお野菜は「都筑新鮮野菜朝市」と題し、横浜市を介してIKEA横浜のエントランスで月に1~2回販売する機会を提供することで、地産地消にも取り組んでいます。

他に先駆けて始めたリセールの取り組み

IKEA横浜では不要になった自社家具の買取サービスを行っています。買い取った家具はメンテナンスが施されたうえで、「サーキュラーマーケット」にてリセール品としてリーズナブルな価格で販売されます。

サーキュラーマーケットではリセール品のほか、展示品やパッケージが破れてしまった商品などが販売されています。

菅野:中古品を安価で販売すると新しい商品が売れなくなるのではと、店長的には不安を感じなくもないですが(笑)、イケアはパーパス(基本理念)にかなった取り組みはためらわず推進するという企業風土があるんです。

買い取った家具はコワーカーによってしっかりとメンテナンスが施されたのち再販売されます。

近年、ユニクロをはじめとする日本の大手企業もリセール事業に取り組むことが話題となりました。サステナビリティへの関心と共に「大量生産・大量消費・大量廃棄」という従来の経済システムへの忌避感が、日本の一般消費者の間でも高まっていることを示す事例といえます。しかし、イケアがそうしたリニア型からサーキュラー(循環)型への移行を目指す一環として、家具の買い取りサービスを開始したのは、現在より約8年も前の2017年のこと。この分野においても非常に先をいっていたことが分かります。

フラットパックによって効率的に管理される商品。より環境負荷を減らすため、専門部署によって絶え間なく改良が続けられているそうです。

輸送時のCO2排出を減らす工夫

イケアによる、最も有名なサステナブルな取り組みといえば「フラットパック」と呼ばれる梱包手法でしょう。バラバラの状態の家具を平らな(体積の小さい)箱に隙間なく収めた状態で販売することで、輸送や保管にかかるコストを下げ、低価格で高品質な製品を提供できるというものです。輸送の効率化はすなわちカーボンニュートラルへの貢献にもつながります。一つのコンテナにより多くの製品を積むことができれば、輸送回数が少なくなり、CO2の排出量も減らせるからです。イケアがこのフラットパックを採用し始めたのは1953年のこと。そして輸送に関する工夫は現在まで継続的に続けられていると菅野さん。

写真左側が紙パレットで輸送されてきた製品。現在、木製パレット(写真右側)は店舗内での輸送のみで使用されているそうです。

菅野:工場から出荷された製品はフォークリフトなどで効率的に運べるよう「パレット」という規格化された台に載せられてストアへやってきます。従来の木製のパレットは返送する必要があったのですが、それには輸送コストやCO2が発生します。この課題を解決しようと、イケアではダンボール製の紙パレットを採用しています。これ自体がリサイクルされた素材で作られており、使い終わったら圧縮機で体積を小さくしたうえで、再びリサイクル工場へ送ります。木製のものに比べて体積が小さく軽量なため、輸送コストとCO2排出量を減らすことができるのです。
また、IKEA横浜ではダンボールシュレッダーを導入し、使用済みダンボールをストア内で配送用の梱包材としてアップサイクルする取り組みも行っています。

特殊なシュレッダーによって裁断され、緩衝材へとアップサイクルされたダンボール。

さらにイケアは消費者向け包装におけるプラスチックの使用を段階的に廃止すると発表しており、ダンボールのような再生可能な素材やリサイクル素材を使用した包装へと順次切り替えているそうです。

菅野:最後にお客様への宅配におけるサステナブルな取り組みについてお話しします。イケアでは「2028年までにラストワンマイル配送(お客さま宅配送)のトラック配送をゼロエミッション車に切り替える」というグローバルな目標を掲げているんです。それを踏まえ、IKEA横浜ではお客様への配送をEV軽自動車で行っています。そして「IKEA横浜ベイクォーター」や「IKEA原宿」のような小型店舗との店舗間輸送にはEVトラックを導入しました。現状でIKEA横浜の全配送のうち、約44%がEV車によるものとなっているんですが、まだハイブリッド車なども稼働しているので、配送のパートナー企業にもご協力いただきながら、さらにこの比率を高めていきたいと考えています。

奥に見えるのがIKEA横浜に導入されている三菱ふそう製のEVトラック「eCanter」

IKEA横浜で行われている「地球にやさしい」取り組みはじつに多岐にわたり、規模も大きいですが、その発想や手法自体は特別なものではなく、そのほとんどが我々の暮らしにも転用できるものです。イケア、ひいては北欧から真に学ぶべきは、あらゆる営みに対し、もっと豊かで、もっとサステナブルなものに変えようと絶え間なく創意工夫する姿勢こそにあるのかもしれません。IKEA横浜の取り組みを参考にして、改めて自身の暮らしを見つめ直してみませんか?

取材にご協力いただいた若林有紀さん(左)、菅野秀紀さん(中央)、北村 海さん(右)

【情報】
・IKEA横浜
https://www.ikea.com/jp/ja/stores/yokohama

・イケアのサステナビリティ戦略
https://www.ikea.com/jp/ja/this-is-ikea/climate-environment/the-ikea-sustainability-strategy-pubfea4c210/

・毎日をサステナブルに
https://www.ikea.com/jp/ja/this-is-ikea/sustainable-everyday/

キーワードから関連記事を探す

CO2排出 EVトラック IKEA SDGs ウェルビーイング サーキュラーマーケット サステナブル フード革命 リセール

STYLE100トップ