サステナブルな乗り物で街を走ろう

再使用エネルギー

近年、都市部におけるサステナブルな移動手段として、自転車が注目されています。
化石燃料を必要とせず、CO2を排出しない自転車は、地球環境に優しいことに加え、街の風景や季節の移り変わりを体感しながら移動できる点も魅力です。横浜は、そんな自転車の活用を推進し、その魅力を世界に向けて発信する都市でもあります。

ゼロエミッションな都市づくりに欠かせない自転車

ゼロエミッション(温室効果ガスなどを実質ゼロにすることを目指す概念)において有効な乗り物である自転車。また、自動車と比べて、道路の占有スペースが遥かに少ないことから、渋滞や路上駐車を削減することができ、人々の移動がより快適にできる都市づくりにつながります。

2025年6月、横浜市では全国初となるシェアサイクルの共同ポート化がスタートしました。共同ポート化とは、異なる事業者が運営するシェアサイクルのポート(各駐輪場)を自由に利用・返却できる仕組みです。これによって市内の自転車での移動がこれまで以上にスムーズになることが期待されています。

そんな自転車と人と環境に優しいまちづくりを目指す横浜で、20年以上前から、横浜に自転車カルチャーの礎(いしずえ)を築いてきた方がいます。横浜に居を構えるメッセンジャー(自転車便)会社 「Courio-City(クリオシティ)」の代表、柳川健一さん です。
日本では「メッセンジャー」という職業さえ認知度の低かった2003年から、横浜を中心に自転車で荷物を運搬する事業を展開してきました。現在、約50名のスタッフとともに街や人のニーズに沿った新しいメッセンジャーの姿を模索し続ける柳川さんに、横浜と自転車、そして、横浜から発信する自転車カルチャーの現在地を伺いました。

有限会社Courio-City代表・柳川健一さん。横浜市出身。大学時代にトライアスロン競技を始めたことをきっかけに自転車に興味を持つ。横浜と東京のメッセンジャー会社に就職後、29歳でCourio-Cityを立ち上げ独立。メッセンジャーネームは 「YANAKEN(ヤナケン)」。

CO2排出、環境負荷のない自転車は「たくましい」生き方のシンボル

1999年からメッセンジャーとして働き始めた柳川さん。世界中の自転車メッセンジャーたちが集まり、スピードや配達スキル、ナビゲーション能力などを競う「Cycle Messenger World Championships(以下CMWC)」にこれまで8度参戦、そこで世界中のメッセンジャーとその街で暮らす人々の生活に触れたことが自身の生き方に大きな影響を与えたといいます。

柳川さん:CMWCは、ただメッセンジャーとして働く人が集まって競ったり、パフォーマンスをする場というよりも、この仕事を通じてどういう生き方を選ぶのか、なにを大切にするのか、価値観の共有の場だと感じたんですね。皆、メッセンジャーであることにプライドを持っていて、自分の脚で荷物を運ぶことや、人をつなげること、人の役に立つことで身を立てることに強い価値を見出していて、強く共感しました。

2019年CMWC参戦の柳川さん。その後、2000年フィラデルフィア、
2002年コペンハーゲン、2003年シアトル、2009年東京、2010年グァテマラ、2019年ジャカルタ、2023年横浜、2024年チューリッヒと8つの都市でメッセンジャーとその文化に触れてきました。

そんな経験を経て立ち上げたCourio-Cityの業務は、ただ自転車で荷物を運ぶだけではないそう。荷物を最速で届ける「RUSH便」や、2~3時間の間に届ける「じかん便」といったサービスに加え、港町・横浜ならではの通関手続き代行業務や、ときには、お得意様のPC作業のお手伝いなど、多岐にわたると柳川さんはいいます。

柳川さん:メッセンジャーには人と人をつなぐという、アナログだけど大切な役割があると思っています。
最近はペーパーレス化で書類が減っていますが、時代が変わると街もお客さんもニーズも変わります。ただ荷物を運ぶだけではなく、お客さんひとりひとりに合わせた気遣いだったり、柔軟なサービスに対応できることがCourio-Cityの強みであり、メッセンジャーがこの街でかけがえのない存在として根付くことができた理由だと思っています。

Courio-Cityのデリバリー業務で使用しているのはデンマーク発のカーゴバイク「ブリッツ」です。(画像は同モデル。)

自転車の魅力を柳川さんはこう語ります。

柳川さん:自転車の一番の魅力は依存しないという部分です。自分の体力が続く限り移動ができるし、物も運べる。例えば、自動車だとガソリンや電気に依存しますよね。日頃から自分以外の何かに依存して暮らしていると、自身の「たくましさ」が失われていくような気がするんです。
都会の暮らしは便利である一方で、依存しないと生きていられないという不安もはらんでいますよね。そこから自由でいられる点が自転車の素晴らしさだと思うんです。

自転車カルチャーの発信地としての横浜

柳川さんのビジネススタイルで印象的なのは、自転車便という枠を超え、自転車カルチャーの発信・発展に挑んでいるということです。

2019年、メッセンジャーの世界選手権CMWCジャカルタ大会にて、CMWCの横浜大会への招致に尽力し、見事成功。2023年、東京大会以来14年ぶりの「CMWC横浜大会」を実現したのです。

競技を行なった日産スタジアムを中心にマリンタワーや象の鼻パークなどでも関連イベントを実施。大盛況のもとCMWC横浜大会が開催されました。

また、2001年ニューヨークで始まった自転車をテーマにした映画・アート・カルチャーを祝う国際的なフェスティバル「Bicycle Film Festival(以下、BFF)」 を2005年に日本で初めて開催、その後10年にわたり日本の開催に尽力するなど、日本の自転車・メッセンジャーカルチャーの発展に貢献してきました。

2015年東京にて開催されたBicycle Film Festival TOKYO。青山学院アスタジオを中心に様々なコンテンツを展開しました。

そして、2025年はBFF創立25周年、日本へ上陸して20周年というアニバーサリーイヤーにあたる年。11月22日、23日には、横浜の各所で様々な自転車のイベントを盛り込んだ「Bicycle Film Festival 2025 YOKOHAMA」が開催されました。

今年は東京を皮切りに横浜・大阪・尾道と4都市をツアーするスペシャルな企画。BFF創設者ブレント・バーバー氏も本拠地アメリカから来日しました。

柳川さん:メッセンジャーの文化もそうですが、日本における自転車社会の成長はこれからだと思っています。もともと自転車への関心が高いヨーロッパでは、各地で自転車道の整備が進み、今では物流も人の移動も自転車のほうが便利で早いんです。例えば、デンマークは移動における自転車の使用率がかなり高いのですが、その理由を聞くと、「自転車のほうが早いからだ」と答えるんです。そもそも自転車の方がスピーディで便利に移動できるような都市づくりがされているんです。そんな都市づくりは横浜でも実現できると感じています。自転車にまつわる映画祭やイベントを積極的に仕掛けることで多くの方に自転車への興味を持ってもらい、自転車を活用した都市づくりを後押しできればと思っています。

カーゴバイクで生まれる、さまざまな街との新しい関係性

11月22日、23日に開催したBicycle Film Festival2025YOKOHAMAでは、横浜の老舗映画館・ミニシアター「ジャック & ベティ」で自転車にまつわるショートプログラムの上映を実施。横浜各所にて、マーケットやワークショップもありと盛りだくさんのコンテンツでしたが、注目すべきはカーゴバイクユーザーが一同に会して災害時を想定したシミュレーションを夜通し行うイベント「Cargo Bike Meet up」です。
災害時のカーゴバイクの有用性や防災をテーマにしたコンテンツなどを学ぶことができるプログラムです。

柳川さん:オランダでは、時間帯によって車を通行止めにする場所があり、そこで物流のキーになるのがカーゴバイクです。トラックからカーゴバイクに荷物を積み替え、ラストワンマイル(物流の最後の区画)を自転車で運搬することで、環境にも配慮できるし、やはり物流のスピードが早いんですね。
海外のカーゴバイクの活用例として、観光客の荷物を駅からホテルに運んだり、現地を観光で巡る際に使う自転車を出発地までカーゴバイクに積んで運ぶことも多いです。
そうした活用例から、日本でも様々な場面でカーゴバイクの活用が検討されることを期待しています。

東日本大震災から1ヶ月も経たない当時、ガソリンの供給もない中、往診で困っていた被災地女川の医療現場に持ち込んだというロングテール型のカーゴバイク(SURLYのBig Dummy)。

現地にてドクターが試乗。「点滴がたくさん積めそう!すぐに使わせてもらいます」と災害現場の医療物資の運搬に活躍しました。

こちらは世界に1つしかないカーゴバイク什器の店舗ブース。デリバリー業務で使用しているBULLITT(ブリッツ)を採用。横浜の観光や花に関する情報を発信する “YOKOHAMA FLOWER BASE” プロジェクトで活躍中です。

自転車を生かして人が人らしくつながる都市へ

最後に、柳川さんが自転車を通じてつくりたい未来を伺いました。

柳川さん:これは、僕がメッセンジャーを続けている理由にもつながりますが、
海外の街でメッセンジャーが根付いている光景を見ると、そこに暮らす人たちがとても幸せそうに見えたんです。

日本では運送システムが非常に優れていて、遠い場所でも翌日に荷物が届くことが可能です。それは本当に素晴らしいことなのですが、全国規模の大きな仕組みの中で動いていることのマイナス面として、近距離でも「明日届く」ということが発生します。

一方で、海外では「近い距離ならすぐ届く」のが普通です。
メッセンジャーが街のあちらこちらにいて、荷物を受け取ったらすぐに走り出す。
駅にもメッセンジャーが待機していて、「今すぐ届けてほしい」という声に応えられる環境があるんです。それが当たり前のサービスとして社会に根づいています。大きなシステムに依存することのない物流には、人と人がつながり、顔の見える関係性があり、そういう街で暮らす人たちは気持ちも豊かでどこか安心しているようにも見えました。

日本の駅前にはタクシー乗り場がありますが、メッセンジャーの待機場所はない、そういった点にまだまだ日本の伸び代はあると思っています。
もしメッセンジャーの存在がもっと社会に認知され、横浜でもそうした仕組みが広がっていけば、街はもっと便利に、そして暮らす人たちの生活もより豊かになると信じています。

僕たちがメッセンジャーを増やしていくのは、そんな未来をつくるためなんです。

街のスピードや効率を優先するだけでなく、“人が人らしくつながる都市”をどうつくるか。その鍵を握っているのが、自転車やメッセンジャーの存在かもしれません。

【情報】
Courio-City https://courio-city.com/
Bicycle Film Festival 2025 YOKOHAMA https://www.bicyclefilmfestival.com/japan

取材させていただいたのは...

STYLE実践のヒント

まずは自転車で行けるところまで行ってみてください。目的地までちょっと遠いかなと思いつつも、自転車で走り出してみると案外早く着いちゃうこともよくあります。自転車があると生活の可能性が広がる、まずはやってみてほしいなと思います。(柳川健一さん)

STYLE100編集部

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