グリーン焙煎のコーヒーを味わおう
再使用エネルギー 循環型経済
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毎日の仕事やくつろぎの時間に飲む、一杯のコーヒー。その日常的なひとときの裏側で、抽出後に出る大量の「コーヒーグラウンズ(コーヒーかすのこと)」が廃棄されている現状があります。
そんな中、横浜市都筑区に工場を構える『アライドコーヒーロースターズ』がスタートさせたのが、独自の『グリーン焙煎』という画期的な取組です。今回は、コーヒーグラウンズを燃料に加工し、そのエネルギーでコーヒー豆を焙煎する循環システムへの挑戦をご紹介します。

1970年代からコーヒー豆の焙煎、加工、販売を行う、アライドコーヒーロースターズ株式会社。
コーヒーが飲めなくなるかも!?地球にやさしいコーヒーを目指すわけは
いま、地球温暖化に伴う気候変動が、コーヒー業界にとっても看過できない問題として受け止められています。そこで、家庭用から工業用まで多種多様なコーヒー豆の焙煎・供給を専門に手がけるアライドコーヒーロースターズでは、従来にない新しいアプローチとして「グリーン焙煎」の開発に取り組んでいます。担当する千田拓哉さんにお話を聞きました。

グリーン焙煎の企画・商品開発に携わる千田拓哉さん。
千田さん:いま、コーヒー業界では「2050年問題」と呼ばれる課題に直面しています。地球温暖化の影響で、コーヒー豆を栽培できる地域が縮小している一方で、需要が世界的に増えているからです。このまま気候変動が続けば、2050年にはコーヒー豆の栽培適地が現在の半分になってしまうと予測されています。

「このまま気候変動が続けば、2050年には現在のように気軽にコーヒーを味わえなくなる可能性が指摘」と千田さん。
地球にやさしいコーヒー作りを模索していた千田さんが、グリーン焙煎を着想したきっかけは、取引先から寄せられた声でした。
千田さん:カフェやレストランなど、外食産業のお客様から「コーヒーグラウンズを有効利用できないか」というご意見をいただいたのです。そこには、サステナビリティとしての観点だけでなく、産業廃棄物として処分するにもコストがかかるという背景がありました。私たちは長くコーヒーの焙煎と販売を行ってきましたが、その廃棄方法については、あまり積極的に考えていなかったことに気付かされたんです。

一般廃棄物となるコーヒーグラウンズをはじめ、さまざまな廃棄物を排出している現状があります。
残りかすを熱源に、循環型『グリーン焙煎』でコーヒーの危機を救う
転機は環境配慮型のサービスや技術を紹介する展示会を訪れたことでやってきました。
千田さん:近畿大学が、さまざまなものを燃料にする『バイオコークス』という技術を展示していたんです。コーヒーグラウンズをこの技術で燃料化し、それを焙煎に用いることができるのではとひらめきました。
この方法が上手くいけば、廃棄物を減らすのと同時に、従来の化石燃料由来のガスを代替することで脱炭素にも貢献できることになります。
千田さん:コーヒーグラウンズは量が多いだけでなく、抽出時の水分で重さが3倍にも膨れ上がります。保管や運搬のコストがかさむうえに、放置すればすぐに傷んでしまいます。 だからこそ燃料として、その場で大量に絶え間なく消費し続けるサイクルを作ることが、現実的な解決策になるのです。燃料としての可能性に気づいた瞬間、「これしかない」と直感しました。そこで、環境負荷を減らす「グリーン」な取組という意味を込めて『グリーン焙煎』という名前を掲げました。ただ、この理想を形にするための道のりは、決して平坦ではありませんでしたね。

「私たちの事業はOEM中心だったので、『グリーン焙煎』のコーヒー豆は初の自社ブランド商品ともいえますね」と千田さんは語ります。
コーヒーグラウンズをペレットに変える、挑戦の日々
そして、環境省の「令和5年度 地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」というプロジェクトをもって、千田さんの挑戦の日々が始まります。
千田さん:コーヒーグラウンズはカロリーが高く、燃やしたときの熱量は木質ペレットの1.2〜1.3倍ほどあります。そうした特性を知ったことも取組を始めたきっかけになっています。
しかし、粉状のコーヒーグラウンズを固形のペレットにするのは、簡単なことではなかったと千田さん。
千田さん:このプロジェクトは環境省の開発補助金事業として採択されたため、指定の期限までに一定の成果を出す必要がありました。ところが、ペレットの製造は想定していたよりも非常に困難で、コーヒーグラウンズがなかなか固まらずに難航していたのです。ペレットができないと焙煎もできず、後の工程が全部進みません。「何とかしなければ」と、私と社員の二人でメーカーさんへ出向くことにしました。開発全体では2年かけましたが、そのうち丸々4ヶ月分くらいを月曜から金曜までそちらで過ごしましたね。

横浜の工場内にある、ペレットの成形機。
コーヒーグラウンズを燃料にするためには、まず抽出後の濡れた粉を乾燥させ、高圧で圧縮してペレットに加工するという工程が必要です。この作業のために乾燥機とコーヒーペレット成型機を新たに開発したものの、期待通りに粉が固まらない状況だったのです。そこで、現場ではペレットの原料となる粉の水分量、粉の粗さ、成型機の条件の組み合わせを変えながら、何度も試作と燃焼テストを繰り返しました。
千田さん:状態を見ながら「押し出すための穴を細くしてみたらどうか」「他の物質と混ぜてはどうか」などの提案をしました。メーカーさんには申し訳なかったのですが、なんとしても成功させたいという思いでした。条件を変えて試し、良い結果が出た要素だけを残す。そこからもう一度出発して、さらに改良を重ねていく、その繰り返しでした。
千田さんを突き動かしていたものは「成功させなければ」というプロジェクト担当者としての使命感だけではありませんでした。
千田さん:予想外の展開で大変でしたが、私はもともとコーヒーが大好きで入社したので、楽しさも感じていましたね。ペレットが固まった瞬間は感動と同時に「これで先に進める」と安心感を覚えました。もともとペレット化が難しいようなら心が折れていたかもしれませんが、不可能ではないという手応えがあったので、最後まであきらめずに取り組むことができました。

最終的には、混ぜ物をせずコーヒーグラウンズだけで固めることに成功しました。

木質ペレットとほぼ同じ形状に仕上げることができています。
「美味しいからこそ、つづく」味へのこだわり
2年間のプロジェクトで基盤的な研究開発は完了し、現在は横浜工場に30kgのプロトタイプを導入しています。次は、2026年夏にスケールアップした120kgの実機焙煎機を横浜工場で設置しようとしている段階です。今回は特別に工場をご案内いただきながら、グリーン焙煎の機械を見せていただきました。
千田さん:ペレットは容器に入れて、燃焼炉へ運んでいきます。ここで燃やした熱風をダクトで送り込み、コーヒーを焙煎します。10分ほど焙煎した豆はかなり温度が高いので、冷却器で冷やし、工場のラインに送ります。

「このような熱風式の焙煎機は熱効率が非常に良く、短時間でムラなく焙煎できます」と千田さん。

焙煎機のいわゆる「顔」の部分。一度に120kgのコーヒーを焙煎できます。

工場内は焙煎したばかりのコーヒー豆の香ばしさでいっぱいです。
こうしてグリーン焙煎で作られた、アライドコーヒーロースターのオリジナル商品が『巡珈(じゅんか)』です。
千田さん:オーソドックスな何杯でも飲みたくなる「ザ・コーヒー」をコンセプトに作りました。甘い香りや華やかさなど強い特徴を持つコーヒーではなく、巡珈は2杯、3杯と飲んでも飽きの来ない味わいに仕上げました。満足のいくものが作れたなと思っています。

『巡珈』の巡る、という字には資源が循環する意味が込められています。

ニュートラルな印象でありながら適度に奥行きのある味わいで、ついおかわりしたくなる一杯です。
地球にやさしいだけではなく、「美味しい」と思って飲んでもらえるコーヒーであることに、千田さんには特別なこだわりがありました。
千田さん:グリーン焙煎であっても、まず美味しいコーヒーであることを重視しました。私自身がコーヒー鑑定士の資格を持っており、商品開発時には味作りを担当しています。また、社内には競技会で受賞歴のあるローストマスターがいて、一緒に開発を進めています。OEMで培った知見も活かしながら理想の味を追求しました。

「仕事中でも違和感なく、邪魔にならない。そんな日常のコーヒーとして飲んでいただきたいです」とこだわりを伝えました。
グリーン焙煎では大量のコーヒーグラウンズを再利用できますが、完成させたことで見えてきた新たな課題は、その回収方法でした。アライドコーヒーロースターズのグループ内には抽出工場がなく、抽出後のコーヒーグラウンズを外部から集める必要があったのです。
千田さん:現状では、ひとつの飲料工場から安定的に回収できていますが、元々やりたかったカフェ・レストランからの回収については、まだ試行錯誤しています。例えば自社便で輸送できればいいのですが、企業をまたいで粉を回収しようとすると、法律や条例の制限でどうしてもコストが膨らんでしまうのが現状です。そのハードルをどう乗り越え、協力の輪を広げていくかが、これからの大きな挑戦です。
一杯のコーヒーから、循環が当たり前になる未来へ
現在は試験機による運用で、いわば助走期間。2026年には、大量生産を可能にする『グリーン焙煎機』の稼働がいよいよ始まります。その他にも、アライドコーヒーロースターズではサステナブルな取組があると、総務部で社内のサステナビリティ推進に携わる栗山寿久さんが教えてくれました。

総務部 業務推進役として、社内のサステナブルな取組を担当する栗山寿久さん。
栗山さん:コーヒーグラウンズ以外の廃棄物として、コーヒー豆の周りにある渋皮の「チャフ」を酪農家へ飼料として提供し、堆肥の材料に使っていただいています。また、海外からの輸送に使われる麻袋も、現状では多くが廃棄されていますが、一部を日本家屋の壁材として再利用しています。とはいえ、当社から排出されるごみの総量と、再利用される量のバランスはまだ大きく偏っており、現段階では廃棄量のほうが圧倒的に多いのが実情です。それでも、可能な限り再利用し、焼却を減らす取組を継続しています。

コーヒー豆作りの過程で大量に排出されるチャフ。
廃棄物を積極的に再資源化する理由について、栗山さんは次のように語ります。
栗山さん:やはり、「もったいない」という気持ちから始まっていると思います。これ何か使えないかな、と。また、横浜市はごみの分別を積極的に行っているので、私も市民として、そういう感覚が根付いているのかもしれません。あとは廃棄物の処理にかかるコストを削減するという意味もありますね。
これから本格的に始まっていくグリーン焙煎をはじめ、アライドコーヒーが行っている取組や循環モデルを今後どう広げていきたいか、最後に千田さんに展望をお聞きしました。
千田さん:まずはカフェ・レストランのコーヒーグラウンズを回収して、燃料として再利用する成功例を作りたいと考えています。このコーヒーの事例を理想的なモデルとして、他の食品残渣も世の中でうまく活用されたらいいなと思っています。
2050年、コーヒーが姿を消すかもしれないという危機。その課題に対する一つの解が、このグリーン焙煎という挑戦です。捨てられるはずだった粉を熱源に変え、次の一杯を焙煎する。そんな循環が当たり前になったとき、私たちは2050年以降も美味しいコーヒーを楽しみ、地球と調和する豊かさを分かち合えているに違いありません。
【情報】
アライドコーヒーロースターズ株式会社
https://www.allied-coffee.co.jp/
アライドコーヒーロースターズECサイト
https://alliedcoffee.base.ec/
取材させていただいたのは...
STYLE実践のヒント
「家庭で出たコーヒーグラウンズも、うまく堆肥化できれば、花や野菜を育てる際に利用できます。食育の観点からも面白い可能性がありそうですよね。子どもたちにも、サステナブルな取組を小さい頃から身近に感じてもらい、習慣化してもらえたら理想的だと思います」(千田拓哉さん)
STYLE100編集部