「脱炭素取組宣言」から中小企業を変えていこう!
再使用エネルギー 循環型経済

「脱炭素化」という言葉を耳にしたことはありませんか?これは気候変動の原因となるCO2を含む温室効果ガスの排出量を実質0にしていく取り組みのこと。2024年6月、横浜市では市内の中小企業からこの脱炭素化を広めていこうという「脱炭素取組宣言」がはじまりました。じつは、市内の企業の99.6%は中小企業という横浜市。そして、その約50%がいまだ脱炭素への取り組みに至っていないという現状があります。
今回は中小企業が主役となり脱炭素化の取り組みをおこなう、中小企業のあたらしいスタイルづくりをお届けします。
脱炭素化に着手する第一歩目、それが「脱炭素取組宣言」
中小企業が脱炭素の取り組みを宣言する。まずはその一歩目を促すという「脱炭素取組宣言」、具体的にはどんな宣言なのでしょうか?
横浜市経済局・宮田さん 横浜市において、企業全体の割合の99.6%は中小企業です。横浜市全体の温室効果ガスの排出削減を考えていくにあたって、大企業を中心に脱炭素化の取組は進んでいますが、中小企業の皆様にも脱炭素化に取り組んでいただく必要がある、それがまずこの宣言制度発足の背景にありました。

横浜市経済局・篠田さん 中小企業が脱炭素化に着手していない理由を横浜市が調査したところ、「ノウハウがない」や「ハードルが高い」と感じている方が非常に多くいることがわかりました。我々としましては、こまめな消灯による節電や空調温度の適正化、LEDへの切替など、事業者の皆様がすでに取り組んでいる身近な省エネ活動も脱炭素化の第一歩目なんですよということをご理解いただき、宣言することで脱炭素化に取り組む意欲を可視化し、脱炭素化の行動変容を促すことを目的としてこの制度を進めています。
横浜市のホームページから脱炭素取組宣言のサイトをのぞいてみるとまず飛び込んでくるのは「宣言する」ボタン。

回答にかかる所用時間はおよそ3〜5分。下にスクロールすると脱炭素化の具体例がわかりやすいイラストとともに提示されています。
宮田さん 宣言のフォームに入ると、記入する項目が大きく分けて3つあります。 まず、企業の情報、 二つ目が「既に行っている脱炭素化の取組」、三つ目が「今後、行う予定の脱炭素化の取組」。二つ目と三つめは、共通の15項目の選択肢から回答していただきます。するとすぐに宣言ができ、即日宣言書やロゴマークをダウンロードすることができます。また、ステッカーも後日発送しますので、取組のPRなどにご活用いただければと思います。また、事業所単位、工場と本社などそれぞれで宣言いただくこともできますので、例えば、東京に本社があり、横浜に事業所、営業所がある事業者さんも参加できます。宣言の際に審査や提出物はなく、企業様の過度なご負担がないようにも配慮しています。

宮田さん 2027年のGREEN×EXPO 2027を目処に、ほぼすべての中小企業が脱炭素化に着手することを目指し、脱炭素取組宣言をきっかけとして行動変容を促すということを現在行なっています。その一方で、脱炭素化に取り組むことで企業価値の向上、経営力の向上につながるというメリットも合わせて提示していくことも重要だと考えています。
宣言事業者のメリットを活用し、企業発展にもつながる取り組みへ。
脱炭素取組宣言をおこなうと、
・「宣言書」や「ロゴマーク」の配付
・「ステッカー」の配付
・脱炭素関連の補助金等の情報提供
・省エネ診断の受診費用を補助
・横浜市WEBサイトで企業名を公表
・横浜市総合評価落札方式での加点
・LED照明や空調設備などの、設備投資の際の費用を補助
・中小企業融資制度の一部で信用保証料を助成
主にこのようなメリットがあります。
法人だけではなく個人事業主も宣言は可能。また、事業者を対象としていることから、社会福祉法人なども宣言することができ、参加企業数は3500件を超えています。(令和7年2月時点)今年度は、4000件の宣言を目標に「脱炭素取組宣言」は着実に広まりつつあります。
ひととひととの関係性のなかの脱炭素化
宣言することでまずは意欲を可視化し、より企業力も高めていこうという「脱炭素取組宣言」。実際に宣言することでの企業の意識、社内の変化とはどんなものなのでしょうか?
2024年10月より宣言に参加した産業用・工業用ヒーターの製作を行う株式会社スリーハイ代表取締役 男澤誠(おざわ まこと)さんにお話を伺いました。

株式会社スリーハイ代表取締役 男澤誠さん。都筑区内の本社より徒歩1分の場所に工場兼地域に開いたカフェ「DEN」を運営、“東山田食堂&シェアごはん”を開催するなど地域とのつながりも大切にしています。
男澤さん 去年の7月、脱炭素取組宣言の協力団体のひとつ、横浜企業経営支援財団(通称:IDEC横浜)の職員がこの取り組みの説明にこられたんです。とにかくこれをスリーハイでやってほしいとすごく熱意をもってお話をしてくれました。
ただすぐに宣言に踏み切った訳ではなかったと続けます。
男澤さん いつでもできるだろうとちょっと様子をみていました。するとまたIDEC横浜の職員が会社に訪ねてきたんです(笑)。これは中途半端ではなく真剣な取り組みなんだと。もうこれは宣言するしかないと至ったのがそもそものきっかけです。
宣言するにあたり、いくつかの懸念もあったそう。
男澤さん そもそもわたしたちの3つの工場ではすでに電気は再生可能エネルギーを導入、エアコンの温度を下げる取り組みやLEDへの移行など取り組んでいたので、これ以上なにをするんだろう、正直、宣言しなくてもやっていますという感じでもありました。
また、ヒーターという電気で発熱する製品づくりをするスリーハイにとってCO2削減の提案がしづらいとも。
男澤さん わたしたちスリーハイは熱に関する困りごとをオーダーメイドで解決する産業用ヒーターづくりを30年以上やっています。ヒーターは電気をつかって発熱させます。電気を使うということはCO2を排出するということ。ですので、自社では脱炭素化にしっかり取り組んでいてもお客さんに対してCO2削減の提案がしづらいんですね。ただ、2年ほど前からは既存のヒーターに自社のオーダーメイドの断熱カバーをつけて熱の放出を防ぐビジネスも展開しています。実際、カバーをつけることで電気代が40パーセント削減できた事例もあり、今は国内だけではなく、海外にもカバーをおさめていて、脱炭素の取り組みとしてもいま力をいれている事業です。
熱という課題に対して向き合いつつ脱炭素化にも真正面から向き合う。
スリーハイの実際の取り組みを伺うとさまざまかつ、中にはユニークなものも。

コーポレート部門リーダー 堀江美穂(ほりえ みほ)さん
堀江さん 脱炭素取組宣言したことによって、いままでやってきたことが脱炭素につながってるんだねということを社内でも整理できました。
さらに、なにかできることはないかなとみんなで考えるきっかけにもなっています。取り組みとしては、5,6年前から綺麗な段ボールは衛生面に配慮しながら、製品の出荷用に積極的に再利用をしています。段ボールの再利用が社内に浸透していくとあれもこれも段ボールを再利用しようという意識が高まり、なかにはスタッフから「しいたけ」の段ボールの持ち込みもありました。さすがに、当社が取り扱う製品と全く関連のないしいたけと書かれた段ボールはわかりづらいだろうと(笑)。そのあたりも手探りながらみんなでルールを決めたりしていますね。

スリーハイではない段ボールで出荷するためお客様に伝わるようにとスタッフが制作したステッカー。段ボール再利用率は8割にのぼるそう。
こちらはセンサーを購入する際にまかれているボビン。これもまだ使えるのではと社内から声があがり、先方に返却可能か問い合わせたところ、快諾。まとまった数になると先方に送り、相互の資源循環が生まれています。

先方から着払いで送ってほしいという返答があったそう。
パートさんからの分別し廃棄する苦労を耳にした社員の提案によって生まれた取り組みでもあります。
堀江さん ボビンだけではなくて納品書の封筒もある程度ためておいて、お返ししてもいいとお返事頂いたところには返却しています。発注納品や出荷は毎日のことなのでできるだけお互いに循環しあえるものを増やしていけたらなと思いますね。

宣言後、郵送されるステッカー。一目で取り組みが伝わるデザインです。
男澤さん なにかが生まれるときは雑談からというように、脱炭素化というキーワードででてくるアイデアも雑談の中からたくさんあります。普段から日常会話をたくさんしている会社です。社外に対しても脱炭素に限らず情報を多く出していますので、そこから信頼につながって取引がはじまって長いお付き合いになり、ボビンや封筒をお返ししてもいいですかと言える関係性が育って、循環しているように思います。
脱炭素化の取り組みはひとつの会話の中から生まれる。普段のルーティンもちょっと違う視点を向けて、社内の中でそれについて会話がうまれることで変化する。それはスリーハイさんが持つ風通しの良さ、ひととひととの関係性の中でこそ生まれる循環であり、脱炭素化の取り組みをより身近に感じさせてくれる、そんなお話でした。
「地球にやさしい」が、選ばれる理由と新たな出会いに。横浜の中小企業の魅力をさらに高めていこう。
まずは宣言することからはじめる「脱炭素取組宣言」。
最後に、あらためて中小企業こそがこの宣言をする意義について伺いました。
男澤さん これからの時代、顧客からの要求がだんだん高くなる一方です。大企業との取引においても、当社のサプライチェーンにのるのであれば扱う取り組みは開示を求められる時代です。そういった文脈でも脱炭素化を宣言し、情報を公開することは絶対必要になってきます。なにより、まだ出会えていないお客さんに選ばれる可能性もでてくるんですよね。自分たちでお客さんをつかみにいくためには情報を出してみつけてもらうことも大切だと感じています。
宮田さん 単純に「脱炭素化しましょうよ」といってもそこに対してプラス要素がないとなかなか難しいのかなと思いますので、横浜市の制度と仕組みを総動員し、宣言事業者へのメリットも合わせて準備してきました。
さらに今後、会計のルールが変更となり、大企業は有価証券報告書に脱炭素化の取り組みを記載する動きがあります。すると場合によっては、取引されている中小企業の脱炭素化の取り組みも含めて記載していくことになり、脱炭素化に取り組んでいる中小企業が選ばれていく動きが加速されていくことが予測されます。そういう未来を見据えた点でもまずは中小企業の皆様に脱炭素取組宣言をして脱炭素化に取り組んでいただく、そこを促したいと思っています。


横浜市経済局職員のおふたり。「宣言をするとPRグッズが配付されます。ステッカー等を店舗や事務所の目立つ場所に掲示して、自社の脱炭素化の取組のPRにお使いいただくほか、宣言事業者の皆様が発信源となり、脱炭素化の機運を広げていくようご協力をお願いします。」
「脱炭素取組宣言」をすることで新しい企業の魅力を引き出していく。横浜市から新しい中小企業像が生まれていく、そんな期待と予感を感じます。
脱炭素化が中小企業を主役にしたムーブメントになっていく。まずは脱炭素取組宣言してみませんか?
【情報】
・横浜市脱炭素取組宣言 https://www.city.yokohama.lg.jp/business/kigyoshien/decarbonization/datsutansosengen.html
・株式会社スリーハイ https://www.threehigh.co.jp/