リユース手芸を楽しもう

循環型経済

使わなくなった布や手芸用品、「もういらないから」と捨ててしまっていませんか。これらに新たな命を吹き込み、リユース品として販売する手芸店『めぐる布市』が、横浜市青葉区で毎月、期間限定でオープンしています。

横浜市では、家庭から排出される古布のうち、衣料は主に買取事業者が回収して海外に輸出するなどして概ね9割がリユース・リサイクルされています。しかし衣料以外の布は、回収対象外か、回収されてもリユース対象とはなっていません。また、資源回収対象ではない手芸用品に関しても、使わずに手放すとなると家庭系ごみとなってしまうのが現状です。

そのような社会背景のなか、めぐる布市を運営する認定NPO法人 森ノオトは、寄付された資源を必要とする次の人へと繋ぐことで、“捨てる”と“つくる”を楽しく循環させています。これまで段ボール約4225箱分、総量38トンにのぼる布のリユースを実現してきた、その取組を取材しました。

めぐる布市では、さまざまな布や手芸用品の掘り出し物に出会えます。

布を循環させる森ノオトの『めぐる布市』

森ノオトは、2009年に創刊したローカルメディア『森ノオト』を原点に、横浜市青葉区を拠点に活動する認定NPO法人です。地域情報の発信を行う市民ライターとともに、自然社会との共生をめざし、地域社会に繋がりを生み出していく活動を続けています。

めぐる布市はそうした活動の一つで、自宅で大切にしまいこまれた布や、使いそびれた手芸用品を新たな使い手に繋いでいるのです。

循環型の“ものづくり”の魅力を付加価値として提供しながら、布や手芸用品のリユースに取り組んでいます。

来場者に聞く、リユース手芸の魅力とは?

めぐる布市の会場は、青葉区鴨志田町にある一戸建て『森ノハナレ』です。東急田園都市線の青葉台駅よりバス10分、最寄りのバス停からは徒歩3分。近くにはのどかな里山環境が残る青葉区の住宅地が広がっています。

毎月6日間限定で開催されている、この市の2日目に訪れ、会場の様子やお客さんの声を取材しました。

温かみのある売り場の内装は、廃材を活用して作っています。

「子どもの入園・入学をきっかけにミシンを購入して以来、手芸が趣味になった」と話すのは、何と千葉県から訪れたという女性。Instagramで情報収集をしていたところ、めぐる布市を知ったといいます。「大手の手芸店では同じようなものしかないので、少し変わったデザインの布が欲しくて。ここでは昔のキャラクター柄も入手できるので、子どもが喜んでくれます」と笑顔で語ってくれました。

「子どもが作った服を喜んで着てくれるのが嬉しくて」と、購入した布はズボンやパジャマに。

いろいろなアイテムが一堂に集められているのも、こちらの楽しさ。「布の大きさや縫いやすさを、実物を手に取って考えながら選んでいます」と教えてくれました。たしかに、手触りを確かめやすいディスプレイは魅力的で、ものづくりをしたい意欲が刺激されます。

開催期間が限られているため、まとめ買いをするお客さんも多くいます。

手縫いでポーチなどの小物を作るのが趣味だという女性のお客さんは、「小さいサイズの布が売っているので、欲しい分量だけを買える」と話していました。たしかに、小さな布であれば材料に無駄がなく、値段もリーズナブルです。

個性豊かなハギレは100円程度で買えることもあります。

この日は男性のお客さんの姿もありました。もともと趣味だったレザークラフトから、手芸にも興味を広げ、今では母のズボンや孫のワンピースなどを作っているそう。「財布の内装にマッチする、派手な色や柄のハギレがよく見つかります」と話しながら、楽しそうに素材を選んでいました。

店内で見つけたナイロンの接着ベルトは、「ズボンのベルトの芯材にする」と本格的です。

ここに集まる布には、誰かの想いが乗っている

沢山のお客さんが楽しむこの市は、どのようにして生まれたのでしょうか。マネージャーの齋藤由美子さんと、スタッフのお二人にお話をお聞きしました。

齋藤さん:今から10年前、私たちの事業を“衣・食・住”で捉えたときに、“衣”の分野での取組がほとんどなかったんです。そんなことを考えている頃に、セブン-イレブン記念財団の助成金の募集があり、布の「3R」を切り口に新たな事業を始めてみようと思ったのがきっかけです。

ファクトリー事業部マネージャー、めぐる布市リーダーの齋藤由美子さん

そうして2017年に始まった『AppliQué(アプリケ)』は、不要になった布を寄付で集め、アップサイクルして商品を制作・販売するプロジェクトでした。しかし、ここで行き詰まりを感じたと齋藤さんは振り返ります。

齋藤さん:布の寄付は次々と集まるのに、商品を制作・販売するスピードが追いつきませんでした。残った布はどんどんたまっていきます。そのうえ作った商品は売らなければならないので、週末はマルシェなどのイベントに出店する日々でしたね。ネット販売にも苦戦し、頭を悩ませていました。

事業を始めてから約3年が経過した2020年、この事業を今後どうしていくかについて、スタッフ全員で話し合うことになったといいます。

齋藤さん:そこで「布を素材として売ってみたら面白いのではないか」という案が出ました。上手くいくのか未知数のまま、当初は一度きりのイベントとして開催してみたんです。コロナ禍にもかかわらず、思いのほか反響があって予約はすべて埋まり、正直びっくりしました。お客さんがすごく喜んでくれたこともあり、今後も続けようということになりました。

しかし、素材や大きさ、柄などがバラバラの布を「商品」として販売できるようにするのは容易なことではありません。開催日以外の日は、ボランティアスタッフと共に膨大な量の布を仕分け、値付け作業を行っています。

齋藤さん:すべてが一点もので状態もさまざま。相場があるわけではないので、機械的に値付けすることはできず苦労しますね。けれども、大掃除みたいなことをみんなで楽しくやっています。参考になる事例やノウハウがない中で、手探りでやっとここまで来た、という感じです。

人気商品の手織り機キットも、スタッフのアイデアから生まれたもの。

スタッフのお二人は「会話を楽しみに来店されるお客さんもいるので、適度にコミュニケーションをとるように心がけています」
「私の作ったものなんて、という控えめな方が多いのですが、持ち物や服を見て『ご自身で作られたのですか?』とお聞きすると、『そうなんです』と嬉しそうに答えていただくこともあります。そんなやりとりを楽しんでいますね」と普段の様子を教えてくれました。

穏やかな空気が流れる中で、お客さんとの会話が弾みます。

じつはアパレルや手芸業界の出身ではないスタッフも多く、「お客さんに教わることもある」とリラックスしたムードで楽しんでいます。

手芸が好きなのは買い物をする人だけではなく、寄付をする人も同じ。そのことを齋藤さんもスタッフのお二人も実感していました。

齋藤さん:手芸好きの方からの寄付が多いですが、ご本人以外でも「手芸好きだった母の愛用品をただ捨てるのはしのびない」と、寄付してくださる方もいます。ここに集まる布には、誰かの想いが乗ったものが多いんです。寄付の申し込みを受け付けているWebフォームには、ご自身の想いを丁寧に書いてくださる方もいらっしゃいます。

一方で、需給のバランス面には課題があるといいます。

齋藤さん:月に80箱近い寄付が届いており、現在は新たな寄付の受け付けは1年待ちの状態です。そこで、寄付された布の行き場として“出口”を広げる必要があると感じました。

さまざまな種類の布は、1階だけではなく2階にも所狭しと並んでいます。

倉庫にも、まだまだ出口を求めている数多くの布や手芸用品が眠っています。

そうして始まった『出口を広げるプロジェクト』では、福祉事務所や教育施設などに布や手芸用品をお渡しし、活動の様子を写真やレポートで提供いただいています。それを私たちが発信することで、「こんな使い方があるんだ」とアイデア交換に役立ててもらっているそうです。

例えば、小さな布をはぎ合わせることで生まれるパッチワークもアイデアの一つです。

お客さんのために、さまざまな工夫やイベント企画も実施しています。一人で手芸を楽しむ人が、好きなことでゆるやかに繋がれることも人気の秘訣なのだと感じました。

齋藤さん:Instagramのハッシュタグ「#めぐる布市手芸部」は、お客様が購入した布で作った作品を投稿するときに使ってもらっています。投稿すると1ポイントが付き、5ポイント貯まると布市の参加費が1回無料になります。

他にも、ハギレ活用コンテストやワークショップ、月2回のInstagramライブで開催する『オンライン布市』、45分間オンラインでスタッフと1対1で買い物ができる『プライベート布市』などが好評です。普通の手芸屋さんよりもお客さんとの距離が近く、そこからファンになってくださっている方もいるそうです。

さらに、「こんなものも作れるんだ!」と思ってもらえるような、手芸の提案も大切な取り組みの一つです。つぎはぎで作る韓国のポジャギ風カーテンや、四角い布1枚で作れる衣服『四角衣(しかくい)』などは、お客さんのものづくりのヒントになっています。

韓国の伝統的な布工芸・ポジャギ風カーテンは、大きな布がなくても作れるのが魅力。

2025年に5周年を迎えた、めぐる布市。これからの未来について、齋藤さんは次のように語ります。

齋藤さん:「自分たちの地域でも布市をやってみたい」という方が時々来てくださるので、布市そのものの広がりがあっても良いのかなと考えています。捨てたらもったいないと感じるような、面白い布はたくさんあります。とくに昔の布は生地の品質がとても良いので、必要な人に渡していける場所をこれからも続けていきたいです。

布の循環から広がる、手仕事のあるサステナブルな暮らし

布を捨てずに循環させ、持続可能な社会にするために。
今日から誰でもできる暮らしのスタイルについて、齋藤さんはこんなヒントをくれました。

齋藤さん:不要になった布や手芸用品は、多くのご家庭にあるものです。めぐる布市で販売しているものを見て「家にあるハギレでも作れるんだ」と気付いてもらえたら嬉しいですね。

ビンテージ風の質感やレトロな柄など、他にはない個性あふれる古布やレースたち。

単なるリユースとはちょっと違う、寄付する人から買う人へ想いを繋いで、みんなが笑顔になれる場所。布を愛し、手芸を楽しむ人たちの輪が、サステナブルな社会づくりに貢献しています。あなたの家にも不要になった布や手芸用品がないか、探してみませんか。

【情報】

森ノオト
https://morinooto.jp/

めぐる布市
https://applique.morinooto.jp/

横浜環境活動賞
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/machizukuri-kankyo/kankyohozen/katudo/katsudosho/bosyugaiyou.html

※「横浜環境活動賞」は、地域で様々な環境活動を行っている皆様を表彰する制度です。
横浜市では「第32回横浜環境活動賞」の募集を開始しました。
環境にやさしい活動をしている皆様のご応募をお待ちしています!
※NPO法人森ノオトは、第26回・市民の部「大賞」受賞者です。

横浜って面白い!地球にやさしいスタイル続々公開中

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