服を捨てない社会をつくろう
再使用エネルギー 循環型経済

この記事の目次
いらなくなった衣服を、駅ビルや商業施設の資源回収ボックスに持って行けたら、とても便利だと思いませんか。そんなふうに衣服の再資源化をより身近にする、画期的なアクションが横浜で始まっています。
環境省の調査によると、日本では毎年約80万トンの衣料品が販売され、そのうち約50万トンが廃棄されているそうです。そこで、廃棄される衣類を再資源化し、サステナブルな社会を実現したいと立ち上がったのが、JGC Digital株式会社が手がける衣類回収サービス『するーぷ』です。事業内容や込められた想いについて、お話をうかがいました。
参照:環境省「令和6年度 循環型ファッションの推進方策 に関する調査業務」
JGC Digital株式会社の衣類回収サービス、するーぷとは
するーぷは、不要になった衣類を専用の回収ボックスに入れるとオリジナルのポイントを獲得できるサービスです。貯まったポイントは、回収ボックスが設置されている商業施設や提携店舗で利用できるクーポンと交換することができます。また、ポイントは国内外の子どもたちへの支援活動や災害義援金などの寄付に充てることも可能です。
回収ボックスは、スマートフォンアプリで2次元バーコードを読み取って解錠し、投入した衣服の重さに応じてポイントがもらえる仕組みとなっています。

自分にも社会にも“ちょっといい”ことをする、一人ひとりの「する」が「ループ」していく毎日がサービス名の由来です。
そんなするーぷ事業を行うJGC Digital株式会社は、横浜を代表するグローバルな企業、日揮ホールディングス株式会社が90%出資で設立した会社です。日揮ホールディングスは総合エンジニアリングの最大手企業で、環境への取組として、持続可能な航空燃料(SAF)の製造にも関わっています。
なぜ日揮ホールディングスが衣類の回収サービスを展開したかというと、ポリエステルを化学的に分解して再資源化できる「ケミカルリサイクル技術」を保有しているからです。
衣服や繊維製品のリサイクルには大きな課題があります。それは、複数素材が混合された混紡品や製品中の染料の影響により、完全に元の原料に戻すことが困難であることです。
現在、主流のマテリアルリサイクルは、衣服を細かく裁断して繊維くずにし、ウエス(雑巾)やフェルトとして再利用する方法ですが、同じ繊維製品の原料まで戻すことはできません。さらに、マテリアルリサイクルに適さない繊維ごみは再資源化できず、リサイクルできたとしても最終的には焼却処分するしかない、という問題がありました。
一方、ケミカルリサイクルでは素材を原料レベルまで分解・精製し、高純度の素材として再生できます。これにより衣服のリサイクル率を高めると同時に、新たな化石資源の使用を回避できることから、CO2削減にも貢献できるのです。
する―ぷは、そうした同社の技術を社会で活かしていくために、材料となる衣類回収の実証実験として始まったといいます。

スマートフォンアプリで簡単に操作でき、ボックスの空き容量や貯まったポイントもすぐ見られます。

現在は、回収した衣料品は繊維リサイクルの専門会社に依頼して再活用を依頼しています。
年間50万トンの廃棄衣類を資源化するための挑戦
日揮ホールディングス株式会社の新規事業として始まった、するーぷ事業。立ち上げの背景から現在の状況まで、JGC Digital株式会社の代表の長谷川さんにお話を聞きました。

JGC Digital株式会社 代表取締役社長でCEO兼CIOの長谷川順一さん
長谷川さんは初めに、するーぷ事業が立ち上がった背景について教えてくださいました。
長谷川さん:私たち日揮ホールディングス株式会社は、オイル&ガス領域のプラント建設で多くの実績があり、化石燃料系の技術を保有しています。昨今は地球温暖化への対応でCO2削減が求められるなかで、CO2削減への貢献や、サステナビリティに資する新規事業の創出にも注力してきました。そうした中で、私が所属しているシェアドバリュー事業ユニットでは、するーぷ事業を始めることになったのです。
その資源を集めるにあたって、企業の産業廃棄物ではなく、一般消費者から衣服を回収することにしたのは、こんな意図があったと語ります。
長谷川さん:企業を相手として実施したほうが、効率的に回収することができます。ただ、すでに既存の専門業者がいるので、我々が新たに参入して衣類を得たとしても、全体のリサイクル率向上への寄与は小さいと考えました。一方で、環境省が作成した衣類のマテリアルフローを見てみると、家庭の衣類が年間約50万トンほど廃棄されている現実があります。これらを回収して資源化したほうが、全体のリサイクル率の向上に貢献できる割合は大きくなり、挑戦しがいがあるのではないか、と思ったのです。

「うまくいったら非常に意義もあるし、良い活動になるのかなと思っています」と長谷川さん。
するーぷの回収ボックスは神戸市で実施した検証を経て、現在は横浜市の商業施設の中で、合計6か所に設置されています(2025年8月6日時点)。ユーザー登録者数や衣服の回収量が想定を上回るなど嬉しい結果もあった一方で、難しさにも直面したそうです。
長谷川さん:やはり衣服はかさばるし重たいので、運搬のコストをどうするかが課題ですね。ボックスを設置すれば衣服は集められますが、運搬にかかる労力や費用を工面するのがなかなか難しいなと感じています。現在、その課題の解消に挑んでいるところです。
多くの方に積極的に利用してもらえるようポイントが貯まる仕組みを導入したと長谷川さん。
長谷川さん:廃廃衣類の資源化にあたり、まずは多くの方にするーぷを継続的に利用してもらい、やがて暮らしのなかで習慣化していくことが肝要です。このように利用者に具体的なメリットが発生する仕組みを設ければ、善意にのみ頼るのではなく、消費者の行動を効果的に変えることができると考えました。また、獲得したポイントは設置施設で使用できる割引きクーポン券などに還元できるので、設置している商業施設にとってもメリットがあります。
するーぷで不要になった衣服を回収する仕組みを確立し、将来的にはリサイクルへつなげていく。その展開の根底にはこんな想いがありました。
長谷川さん:循環型社会を実現するには、リサイクル技術はもちろん「資源をいかに集めるか」という面も重要だと考えています。するーぷの回収システムは、衣服以外の資源でも応用が可能なので、一般消費者から資源を回収する有効な方法として、社会に広く浸透していくことを期待しています。
各々の持続可能性への想いがつながり実現
回収ボックスを運用するには、設置する商業施設の協力が欠かせません。その中の一つ、『横浜ランドマークタワー』の運営管理を担う、三菱地所プロパティマネジメント株式会社の宗林千加さんにお話を聞きました。

三菱地所プロパティマネジメント株式会社 横浜支店 横浜商業運営室長の宗林千加さん
宗林さん:ちょうど、商業施設を運営するうえでSDGsに関わる取組ができないかと模索していたため、回収ボックスを設置させていただくことにしました。ゆくゆくは、お客様に対して「我々は商業施設としてこんなことに取り組んでいます」といった発信につなげていければと考えています。

横浜・みなとみらいのシンボルでもある、横浜ランドマークタワー。

ショッピングモール『ランドマークプラザ』2階に、するーぷを設置しました。
設置にあたってテナントからは、衣服を回収ボックスに入れるとポイントを獲得できる点と、みなとみらいポイントアプリにも連携できる点が、好意的に受け取られたと振り返ります。
宗林さん:するーぷのポイント還元をきっかけに顧客の購買行動を促進したいという声を多くいただきました。また、不要な衣服を回収してCO2の削減にこれだけ貢献できました、とお客様にお伝えできる点にも魅力を感じました。ランドマークプラザのホームページでも紹介しています。
設置後の周囲の反響も想像を超えるものだったと宗林さん。
宗林さん:思っていたよりも多くの方に利用していただけました。サーキュラーエコノミーの一端を担えたという実感もあって嬉しかったです。集まった衣服を回収する業者の方にも大変喜んでいただき、やってよかったと思いましたね。
なお、今回の取組は、するーぷの導入やJGC Digital株式会社との連携などが評価され、社内で賞も受賞したそう。そして、するーぷの設置をきっかけに、未来に向けた新たな展開も始まっています。
宗林さん:同じく私たちが運営管理を担っている、『MARK IS みなとみらい』でもするーぷの回収ボックスを設置する予定です。また、空きスペースを活かしてSDGsロッカーの設置も検討しており、商業施設という立場から積極的にサステナビリティについて発信していきたいと考えています。

「これからの商業施設はモノを売るだけではなく、循環を意識した場所にしていきたいと思っています」と宗林さん。
タンスのスペースが「次に着たい服」へのワクワクにつながる発見
実際にどのような人がするーぷを活用しているのでしょうか。クイーンズタワーA 1Fエントランスの回収ボックスをよく利用しているという、ユーザーの望月さんにお話を聞いてみました。

するーぷユーザーの望月さん。
望月さん:これまで、不要になった衣服は主に地域の資源回収に出すか、リサイクルショップを利用していました。ただ、リサイクルショップは同じ衣服でも季節によって買取価格が変動するため、最適なタイミングまで待って買い取りに出そうとすると、どうしても量が多くなってしまうんですよね。そうすると車が必要になったりと、時間も労力もかかってしまいます。その点、するーぷは気軽に利用できる点が魅力だと思います。
望月さんは日常的にするーぷを利用していると続けます。
望月さん:毎日の通勤でクイーンズタワーAの近くを通るため、出勤前にも利用できて便利です。朝の着替え時に不用な服があることに気づいて、急遽回収ボックスに出すことにした、なんてこともあります。

クイーンズタワーA 1Fエントランスのするーぷは1階の入り口付近にあり、すぐに立ち寄れます。
実際に、どんな衣服を回収ボックスに入れているのでしょうか。
望月さん:今は自分の着られなくなった服が中心ですが、1歳半の子どもがいるので、今後は子ども服を整理するときにも利用させていただきたいです。子どもの成長は本当に早く、服がすぐにサイズアウトしてしまうので。

「いずれリサイクルをしていただけるなら、その服にも次があるからいいなと思います」と望月さん。
地球にやさしいことに加えて「楽しみ」も享受できることを知ったら、するーぷの利用者はさらに増えるはず。望月さんは、そのヒントになる言葉をくれました。
望月さん:するーぷの利用で収納に余裕ができると、新しい服を買うことにも前向きな気持ちになれますね。買ってから数年間ずっと着ている服もありますが、新しい服を着るのはやっぱり嬉しい。毎日が少し楽しくなりました。
衣服の再資源化が当たり前になる未来へ
いくらリサイクル率を高める画期的な技術があっても、衣類をゴミではなく、資源として循環させようという意識が消費者に行き渡っていなければ、それを十分に活かすことはできません。誰もが日々の暮らしのなかで当たり前の行為として衣類の再資源化に参加できるーー。するーぷはそんな行動変容を目指して展開されるSTYLEです。
するーぷ事業を通じて日揮ホールディングスが目指しているのは、日本国内にはまだない、ケミカルリサイクル専用の工場を建設して稼働させること。そしてポリエステルのケミカルリサイクル技術が社会の中で当たり前のものになることです。
するーぷによる衣服の回収は、そんな服を捨てない社会のための第一歩です。今日から行動を始めてみませんか。
【情報】
◉JGC Digital株式会社
https://jgc-digital.com/
◉するーぷ
https://sales.suloop.biz/
◉横浜ランドマークタワー
https://yokohama-landmark.jp/