地球と衣服にやさしい洗濯をしよう

循環型経済

横浜発の高級クリーニング店『LIVRER(以下、リブレ)』は、デリケートなステージ衣装を手掛けてきた経験から、“服をアンチエイジングする”という新しいランドリーのあり方を提案しています。

また、家庭向けとして、衣類にも地球にもやさしく、優れた洗浄力を持つオーガニック洗剤の量り売りにも取組んでいます。今回は直営店と横浜高島屋にある常設店を訪れ、洗濯を通じて人々の暮らしのあり方を変えようとする、リブレのユニークな挑戦を取材しました。

横浜高島屋6階の店舗は、『LIVRER』のネオンと量り売りスタンドが目印です。

オーガニックで高い洗浄力、“服のアンチエイジング”をする洗剤

リブレは横浜を中心に3店舗のクリーニング店を展開し、そこではオリジナル洗剤の量り売りも行っています。プロが開発した高性能な洗剤を提供することは、それまでの顧客が自宅で洗濯する機会が増え、クリーニング店の利用回数が減ることにもつながりかねません。それでも、なぜあえて洗剤開発に踏み切ったのでしょうか。日本一の洗濯屋『洗濯ブラザーズ』としても活躍する、代表の茂木康之さんにお話を聞きました。

茂木さん:お客様は、ファストファッションのような安価なアイテムにも、購入価格に近いクリーニング代を払っていることがあります。この現状に矛盾を感じました。「これはご自宅で洗えますよ」と正直に伝え、正しい洗い方まで教えたい、というのがリブレの考え方です。そうすることでプロの知見を活かしながらお客様の負担を軽減し、クリーニング店との新しい信頼関係を築きたいと思っています。

リブレを展開する、株式会社バレル 代表取締役の茂木康之さん。

リブレの洗剤の強みは、オーガニックでありながら高い洗浄力をもつことです。この洗剤を開発する過程では、兄の茂木貴史さんの助けもあったと続けます。

茂木さん:私の兄は、海外でナチュラルコスメを専門とするバイヤーをしていました。おかげで兄からは、オーガニックの化粧品や、植物由来のシャンプーなどの使い心地をずっと教わってきたのです。そこで兄に頼んで、海外からオーガニック洗剤を仕入れてみたのですが、肌にはやさしいものの、成分が物足りなくて汚れが落ちない。これを改良しようということになり、そのオーガニック洗剤をベースにしながらも、洗浄力や仕上がりの良さ、着心地の快適さを追求しました。環境にも配慮して、柔軟剤不要の設計にしています。すすぎの回数が一度少なくて済むので洗濯を効率化でき、節水にもつながります。

洗剤を作る契機となったのは、劇団四季からのクリーニングの依頼でした。舞台衣装ならではの皮脂や化粧などの汚れをしっかりと落としつつ、生地が傷まないようにしなければならない。その難しい課題を乗り越えるには、自分たちで洗剤を開発するしかなかった、と茂木さんは振り返ります。

茂木さん:「5年は着用できるように洗ってほしい」と依頼されましたが、きらびやかな衣装の汚れをきちんと落としながら、長年着用できるように洗濯する方法がわからず、初めはお断りしました。しかし、一般的な衣類だけを扱うのでは成長がないと思い直し、生地の端材をご提供いただき、どの洗剤が合うかを分析するところから始めました。そこから4〜5年の時間を要してやっと洗浄力に優れ、衣服にやさしいオリジナル洗剤が完成しました。

苦労の甲斐あって、その衣装は最初のクリーニングから10年が経過した現在も、舞台で使われているそうです。衣服を傷めずに長持ちさせる洗濯術を“服のアンチエイジング”と表現する茂木さん。

漂白剤や柔軟剤に頼らずとも、洗剤だけで優れた洗浄力と心地よい仕上がりを実現します。

もともと業務用として開発したこの洗剤を一般向けに販売することになったのは、クリーニング店の常連客の一言がきっかけでした。

茂木さん:お店でサンプルとして差し上げたところ、「今まで何をしても落ちなかった汚れが落ちた」という声や「売ってほしい」という要望が多くあり、販売しても良いのかもしれないと思いました。ただ、初めは効果的な販売方法がわからずに模索していましたね。

転機となったのは、量り売り販売の実現でした。

人との出会いから始まった「洗剤の量り売り」

茂木さん:横浜のローカルマーケットで洗剤を販売した際に、対面に出店していた量り売り専門店の『バルクフーズ』さんのドライフルーツが次々と売れていくのを見てとても驚き、興味を抱きました。先方も私たちに関心を持ってくれたようで、「私たちは衣食住すべてを提案したいと思っており、洗剤の取り扱いをさせてほしい」というお話をいただいたのです。それが、洗剤の量り売りを始めるきっかけとなりました。

展示会で訪れたパリのカフェにあったという、ヨーロッパ風のドリンクバーをヒントにお洒落さも追求しました。

プラスチックごみを削減できる量り売りは、地球にやさしく、価格もリーズナブルに設定できます。茂木さんはブランド設立当初から量り売りを薦めるうちに、顧客の間でプラスチックごみを出さない生活習慣が根付いてきた手応えを感じているといいます。

顧客のリピート率は6〜7割、新規で洗剤を買った方の多くが継続して使っているそうです。

アパレルとクリーニングの両面から提案し、長持ちする衣服へ

リブレの新たな試みの一つが、百貨店での出店です。横浜高島屋のメンズ・ファッションフロアにあるセレクトショップ『CSケーススタディ(CS case study)』は、単にアパレル製品の販売を行うだけでなく、リブレの量り売り洗剤のコーナーを展開するなど、服の購入から手入れまで、長く愛用するサイクルを一体的に提案しています。

CSケーススタディは横浜高島屋の6階にあり、スタイリッシュなサインが目に留まります。

CSケーススタディは2024年のリニューアルを機に、「地元横浜を盛り上げ、活動を発信する拠点」という新しいコンセプトを掲げました。横浜高島屋 CSケーススタディショップマネジャー兼ストアバイヤーの浦田圭吾さんは、CSケーススタディで洗剤の量り売りを行うようになった経緯をこう振り返ります。

浦田さん:CSケーススタディは、地元横浜の活動を発信し、いろいろな人が集う場所にしたいという考えを持っています。以前、湘南・横浜エリアで活躍されているクリエイターの方を集めて、ポップアップを実施したことがありました。リブレさんにもご出店いただいたのですが、その際に移動式の量り売り設備で販売を行っていて、とても斬新で面白いと感じたんです。それで、こちらの売り場でも量り売りを実施していただこうという流れになりました。

横浜高島屋 CSケーススタディショップマネジャー兼ストアバイヤーの浦田圭吾さん。

自身もリブレの洗剤を愛用しているという浦田さん。使い始めてから変わったことを聞いてみました。

浦田さん:まず、洗濯が楽しくなります。洗い終わった衣類の着心地が良いことに加え、汚れがしっかりと落ち、「上手に洗えた」という充実感を味わえるのです。家族にも「洗濯にハマってない?」と言われるほど、進んで洗濯をすることが増えました。こうしたホームケアの重要性をお客様にお伝えすることで、販売する商品をより長く大切にご着用いただくきっかけになると感じています。アパレルを取り扱う上で、洗剤を組み合わせるのは、ライフスタイル提案の一つの形ではないかなと思っています。

「お客様に洗剤の正しい使い方や知識を伝えることに、私たちもやりがいを感じます」と浦田さん。

茂木さんの著書『日本一の洗濯屋が教える 間違いだらけの洗濯術』は、売り場のスタッフにも読まれています。

環境はもちろん、着る人にもやさしい洗い方

洗剤だけでなく、リブレには他にもこだわっていることがあります。それは、水洗いを中心としたクリーニングをすることです。

都筑区すみれが丘にある、本店のCLEANING LIVRER 横浜ストア。

茂木さん:クリーニング店の洗濯方法は、主にドライクリーニングと、ウェットクリーニングの二つです。一般的には店舗で扱う商品の約8割がドライクリーニングで、油性汚れを落としやすく、形状変化や色落ちもしにくい反面、石油で洗うために汗など水溶性の汚れは落ちません。私たちはアーティストの衣装など、多量の汗が付着した衣類を扱うので、扱う商品の9割は水洗いをしています。ただし、水洗いをすると高級衣料や細い繊維で作られた衣類は形状が変化して縮むなど、トラブルが起こりやすくなります。それを防ぐためには、洗い方や洗剤選びのシビアさが求められます。

環境や人間への負荷という観点では、一般に浸透しているドライクリーニングには大きな課題があるというのが茂木さんの考えです。

茂木さん:クリーニングで使用した石油系溶剤は、フィルターで濾過して再利用することになります。しかし、フィルターが劣化すると溶剤が酸化して洗浄力が低下するだけでなく、服に嫌な臭いがつき、加えて低温やけどを引き起こす可能性もあります。肌が弱い方やかぶれやすい方は症状が出やすく、特にアーティストは汗をかいてパフォーマンスをするなどで体温が上がると、残留した石油成分が反応するリスクもあります。私たちが水洗いにシフトしたのはそうした危惧もあったからです。

都筑区にある店舗では、ちょうどお客さんとしてお店に来ていた方も「例えば、スーツをドライクリーニングすると、全体的にのっぺりとした仕上がりになりがちですが、水洗いはふんわりと元の風合いを残した状態になります。また、汗をかいた後の裏地の肌触りが、水洗いをするとサラサラしていてまったく違いますし、臭いもしません。リブレさんのブランドや素材に対する深い知識と、職人の感性を信頼しています」と喜びの声を伝えてくれました。

茂木さんのプロフェッショナルな仕事で信頼を積み重ねた結果、有名な劇団やアーティストからの依頼にもつながりました。

身近な洗濯から未来を変えていく

リブレが提案するのは、まず、プロが開発した洗剤と正しい知識を広めるホームケアの革新。次に、環境と衣類にやさしいウェットクリーニングへの技術転換。そして、洗剤の量り売り導入によるプラスチックごみの削減です。リブレは、これら3つの挑戦を融合させることで、クリーニング店の常識を打ち破り、人々の衣類ケアの習慣と洗濯のスタイルそのものを変革しようとしています。そんな茂木さんはどのような未来を思い描いているか、最後に聞いてみました。

茂木さん:衣類を販売される方が、洗濯の仕方までアフターケアとしてご説明する、という世界観を描いていました。やはり服が好きな方は、アフターメンテナンスに困っていることが多い印象があります。百貨店で洗剤の量り売りを常設しているのは、CSケーススタディが初めてで、私としてはやりたかったことの一つでした。この先の目標としては、洗剤の量り売りをライフスタイルの当たり前の形にしていきたい、と常々思っています。

地球にやさしいリブレの挑戦はこれからも、まだまだ続きます。

【情報】
LIVRER(リブレ):https://livrer.co.jp/
CSケーススタディ(CS case study):https://www.takashimaya.co.jp/store/special/casestudy/
洗濯ブラザーズ:https://sentakulife.com/index.html

取材させていただいたのは...

STYLE実践のヒント

「おそらく皆さんが一番やってしまっていることだと思いますが、洗濯物を洗剤よりも先に入れるのは間違いです。まずは水と洗剤を混ぜてから、洗濯物を後に入れましょう。ドラム式洗濯機で粘度の高い洗剤を使う場合は、水と洗剤を1対1くらいに溶かして、洗剤ポケットに入れるのがおすすめです。本来の洗浄力を引き出せて、汚れや臭いもしっかりと落ちます。著書の中でも最初のクイズとして出題しており、10問あるのでぜひチャレンジしてみてください」(茂木康之さん)

STYLE100編集部

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