学校の廃材を循環させよう

再使用エネルギー 循環型経済

全国最大の基礎自治体である横浜市では、学校などの公共建築物の建替えや改修に伴い、毎年大量の建築廃材が発生しています。耐久性に優れたサクラやカエデなどの価値ある無垢の床材も、その大半は燃料やチップとして再利用されるのが現状です。

そこで、横浜市建築局が立ち上げたのが「REYO 横浜市再利用材プロジェクト(以下、REYO)」です。廃材そのものはもちろん、懐かしい小学校など建物の思い出も未来につなぐ新たな挑戦。今回は建築局で活躍する職員のお二人を中心に、プロダクト制作やブランドコンセプト設計に関わる皆さんにお話を聞きました。

85%がチップ化される建築廃材の課題

耐久性や強度が求められる公共建築物の木材は、ものによって高い市場価値があるにもかかわらず、そのまま再利用されることは稀です。例えば、学校体育館の床材などの廃材は、その85%が木質チップ化され、燃料やパルプ原料として再利用されているのが現状です。

横浜市で特に木材使用量が多い市立学校に注目すると、市立学校数は500を超え、小学校の数は全国自治体の中で1位を誇ります。これらの体育館では、約40年使用できる床材が、寿命を終えて張替えられることで、横浜市だけでも年間体育館10個分、約5,000平方メートルものフローリング古材が生じています。

参照:横浜市「REYO 横浜市再利用材プロジェクト」コンセプトブック

チップ化するのも再利用といえますが、廃棄物の焼却はCO2が発生し、環境負荷が大きいという課題があります。この大量の価値ある廃材をそのままの形でアップサイクルし、新たなプロダクトとして未来につなげたいという考えがあった、と建築局の城向咲さんはプロジェクトの発案当初を振り返ります。

城向さん:私たちは営繕部門として工事を担当しているため、廃棄物が多く出る現状や、CO2削減といった課題は認識していました。しかし、具体的にどう解決すればいいのか、アイデアがないまま進んできたというのが実情です。古い床材を活用してプロダクトを作る民間の事例もヒントに、「私たちに何かできないか」と思ったことがスタートでした。そして建築局内で調査や研究発表を重ね、2023年に南区の永田中学校から改修工事で取り出した素材を新しく体育館壁に使ったのが、私たちの取組の中で最初に行ったものです。

体育館の床材は安全性を考えると張り替えを余儀なくされますが、磨けば新品同様になり、木の本来の良さが蘇るほどの素晴らしい木材です。硬くて質が良く、何十年も使うことができる、と城向さんは続けます。

城向さん:チップ化して燃やすまでの期間をもう少し長くしたり、木としての寿命を延ばしたりすることで、脱炭素につながっていくはずです。そのような「もったいない」という想いと、脱炭素への共感が、この取組を進める意義になっています。

横浜市建築局学校整備課の城向咲さん。

建築局内にはプロジェクトに積極的な人材もおり、何と自ら手を動かして床材で家具や小物を作り始めたといいます。この活発さがプロジェクトの進行に良い影響を与えたと、建築局の石土健太郎さんは話します。

石土さん:建築局というだけあって、自分でものを作りたい人やDIYが好きな人が意外と多くいます。部長、局長といった立場の人たちが、プロトタイプ版として理科室の椅子などをパッと作れたことは、何もない状態から始めるよりずっと良かったです。何かしたい、何かしなきゃいけないと思っていた中で、最初のスタートをうまく切り、スピード感を持って事業を実現できたように思います。

横浜市建築局学校整備課担当係長の石土健太郎さん。

最初は学校らしいものを作りたいと思い、誰もが子どもの頃から馴染みのある理科室や図工室の椅子を作りました。

体育館の床をデザインに活かしたユニークな家具も、建築局で試作したものです。

こうして走り出したプロジェクトは、福祉施設との連携も実現しました。当初、再利用木材のプロダクト制作を依頼できる民間の事業者探しが困難だったところ、「地域活動支援センター HIKARI」に依頼することになったのです。

城向さん:扱い慣れない、釘の入った廃材を見て最初は難しそうな様子でしたが、協力してくれました。こういう取組が、施設で働く人たちの活動として一つの武器にもなっていきますよね。プロジェクトの一翼を担うことが自信につながればいいなと思っていたので、福祉連携ができたのはとても良かったと思います。

一方で、体育館の床材ならではの加工の難しさという課題もあります。

城向さん:材自体がとても硬いので、専門の工具を持っている方でないとできません。それと、釘やビスがついていること。さらに床材の構成上、下地があってその上に無垢のフローリングがあるのですが、それが釘や接着剤で強力に固定されているので、剥がすのがとても大変なんです。無垢の床材だけを使おうと思っても、なかなか剥がれない。廃材をすぐに使える状態で確保し、ストックすることの難しさが今の課題ですね。

横浜市役所2階で11月に開催された、「REYO 学校体育館の床材がつなぐ循環のデザイン展」の様子。

廃材のベンチで地域とのつながりを生み出した、良品計画の挑戦

学校体育館の床材は大量にあり、建築局だけで全部使い切ることは困難です。そこで民間と連携する仕組みを考え、建築局は他事業でもつながりのあった、無印良品を展開する株式会社良品計画に声をかけたといいます。快諾した背景について、良品計画の相良俊行さんはこう語ります。

相良さん:良品計画では、事業部単位で地域と連携した取組を進めており、横浜事業部でも地域に根差した活動を行っています。今回の体育館床材を活用したプロジェクトも、そうした地域活動の延長線上にあるものです。お話をいただいたタイミングで、ちょうどゆめが丘ソラトスへの出店予定がありました。店舗はお客様と最も接しやすい場所であるため、そこで多くの方に触れていただける場づくりに協力できればと考えたのです。店舗が、地域資源の有効活用を通じて環境負荷に配慮し、地域のお客様のつながりを育む場所となる——そうした想いから、ぜひ一緒に取り組ませていただきたいと考えました。

店舗にはベンチを設置し、余った材料で壁面の装飾パネルを作りました。

この取組をリードしたのが、『無印良品 Colette・Mare みなとみらい』の原口武法さんです。施設の設計などに関わってきた経験を活かし、本プロジェクトでは現場調整やデザイン検討など、社内の加工プロセス全体をまとめる役割を担いました。体育館の床材を使うという前例のない挑戦では、加工や再利用の難しさに直面しつつも、やりがいを感じたと振り返ります。

原口さん:苦労したのは、体育館の床だと感じてもらいながら、雑なデザインにならないようにすることです。社内でデザインチームのメンバーが板を並べながら「ああでもない、こうでもない」「この角度から見るときに、このラインがあったほうがいいよね」と試行錯誤しました。板の並べ替えや配置変更にも、かなり時間がかかったことが記憶に残っています。でも、その過程で「この切り取り部分いいよね」という発見もあり、ベンチ以外にパネルも作ることができました。そういうところに楽しさがありましたね。

『無印良品 Colette・Mare みなとみらい』の原口武法さん。

ベンチの完成後は、隣にREYOのポスターを掲示して成り立ちを伝える工夫も。お店のスタッフからは「お客様がよく立ち寄って、ちらほら会話してるよ」と聞いていた原口さん。

原口さん:自分が通っていた小学校や中学校ではなくても、体育館には人それぞれの色々な思い出があると思います。運動だけじゃなくて、卒業式とか、親子でのふれあいの場だったりとか。そういう思いがお店の中で少し頭によぎる。そうしてほっとするような場所というイメージを持ってもらえると、店舗として地域とのつながりを作れているのかなと思います。

「REYO」という名前が誕生するまで

無印良品の好例を踏まえて、より多くの民間事業者に向けてプロジェクトを発信していくためには、ブランディングが欠かせませんでした。そうして次に声がかかったのが、中区に拠点を構えるデザイン事務所「NOSIGNER」の代表を務める太刀川英輔さんです。太刀川さんはプロジェクトの意義に深く共感し、より親しみやすい名称として「REYO(リヨー)」を提案しました。

太刀川さん:「再利用」をそのまま音の由来にしました。RE(リサイクル)YO(横浜)みたいなイメージもあります。一発で覚えやすい点からもいい名前だし、このプロジェクトにぴったりだと思いました。このREYOの取組を、横浜から始まるムーブメントにできたらいいですよね。

NOSIGNER代表の太刀川英輔さん。

ブランディングを考える上では、小・中学校の体育館の床材とはどのような素材なのかを、太刀川さんなりに解釈していました。

太刀川さん:REYOで使われている材料は、ただアップサイクルされているだけのものではありません。誰かの思い出や物語が詰まった、“エモい”材料です。だからこそ、そのストーリーやエモさも一緒に届けることが大事だと思いました。ただ廃材を使っていますと表現するのではなく、例えば卒業生が「あ、俺がいた頃の体育館か」とわかるような、トレーサビリティの仕組みが大事だと思っています。

REYOのプロダクトをよく見ると、ロゴの横に施設・材歴・材質が書かれています。どこの施設で、何の素材として何年くらい使われていた、何の木なのか。この情報のデザイン化がトレーサビリティの仕組みだと、太刀川さんは意図を説明します。

ただの廃材ではなく思い出のある素材であることが伝わり、プロダクトとしての付加価値が高まっています。

太刀川さん:ロゴのシステムの中に、トレーサビリティを表現するためのルールを作りました。これがわかると、例えば僕は横浜市立杉田小学校と浜中学校の卒業生なので、「浜中でこの年って、俺じゃん」みたいなことになるわけです。環境にやさしいだけでなく、エモさや、自分にとって特別なものだと思ってもらえるようなコミュニケーションにしたいと思っています。

「鍵になるのは、材そのものよりも学校や建物のトレーサビリティではないかと考えました」と太刀川さん。

もともと建築局の中で始まったプロジェクトに、色々な人が参加してアイデアを出し合い、広がりを形作っていく。そうした動きに石土さんと城向さんも手応えを感じていました。

石土さん:ブランディングを行い、さまざまな企業の方々に参加していただいたことで、素晴らしい製品がたくさん生まれました。私たちの部門だけではできなかったことが、こうして実現していくのは楽しいことです。これからの広がりに期待とワクワク感を持っています。

城向さん:REYOの案内や、無印良品 ゆめが丘ソラトスの店舗を見て「ああいうものを作りたい」とお問い合わせをいただくことが結構あります。学校からも反響があり、「うちの学校でもできないの?」と直接学校からお問い合わせをいただきました。床材から始めた取組ですが、例えばバスケットゴールなど他の素材もあるので、まだまだ広がりの可能性があると思います。

一見、再利用が難しそうなバスケットゴールもテーブルの脚に生まれ変わっています。

REYOをより多くの人に知ってもらうために、次の展開も着々と進んでいます。

城向さん:今後、このプロジェクトを戦略的に広げるには何を作ればいいかという話になったとき、横浜市では定期的に表彰の機会があることに着目しました。そこで使われる額をREYOで作れば、大事な場面でブランドを自然に露出でき、継続的に使い続けることができる。他の局でも使えるようになるから良いねということで、賞状に適したサイズの額を作りました。また、市役所にはベンチを作って設置しています。やはり人の目に触れたり、背景を持っているものなんだと分かってもらうことで、取組の価値が伝わっていくと思います。

「賞状の額とあわせて、トロフィーのような形の盾も制作中です」と城向さん。

誰もが思い出を持つエモい材が、未来の社会で循環する

公共建築物という誰もが共通の思い出を持つ場所から生まれた廃材に、エモーショナルな材としての新たな命を吹き込んだREYOの取組。その革新性が認められ、ウッドデザイン賞2025では上位賞を受賞しました。

城向さん:REYOの取組には自信がありましたし、奨励賞である審査委員長賞をいただき、上位31件に選ばれたことは、とても励みになりました。木材を利用するということだけではなく、その背景にある課題意識や、教育、福祉、民間事業者、地域活動、そういったものとのつながりが評価されたのだと思います。この取組が今後も色々な広がりを見せていけると期待されたのかなと感じました。

加工の際に出た木の端は積み木にするなど、資源を無駄なく使っています。

REYOは、どのような未来の社会を見据えているのか。石土さんは思い描く理想についてこう語ります。

石土さん:工事や解体、改修のごみをゼロにすることが最終的な目標だと思っています。非常に難しく、実現できない部分もあるかもしれませんが、すべての資材を再利用できるというのが、私たちの理想です。壊すだけでなく、これから新しいものも作っていくので、新しいものを作るときには、解体時のことも考えながら進めなければならないと常々思っています。何十年後かに体育館や学校などの公共施設を解体するとき、すべてを他のものに転用できることが目標です。その目標を掲げて上を目指していかないといけないと思っているので、営繕部隊として取り組んでいるところです。

廃材を循環させるこの挑戦は、持続可能な都市のあり方を問い直すものです。そして、単なる材ではなく、市民の思い出が詰まった材を次世代につなぐREYOプロジェクト。この取組がより浸透し、未来の社会において「ゴミゼロ」が当たり前となる日が来ることを期待せずにはいられません。

【情報】

学校体育館の床材アップサイクル(横浜市 建築局)
https://www.city.yokohama.lg.jp/business/bunyabetsu/kenchiku/kokyokenchiku/miryoku/upcycle.html

無印良品 ゆめが丘ソラトス
https://www.muji.com/jp/ja/shop/detail/046743

NOSIGNER
https://nosigner.com/

取材させていただいたのは...

STYLE実践のヒント

「この間は小学校でREYOをきっかけにしたワークショップを行い、素材そのものを使ったアップサイクルは、加工の手間も少なくて環境に配慮していることを子どもたちに伝えました。『皆さんだったら、学校で捨てられてしまうもので何を作りますか?』と問いかけると、図書館の好きな本を使ったしおりを作ってみたい、ボールを使ったカバンを作りたいなど、色々なアイデアが出てきて面白かったです。REYOはこうしたきっかけづくりもできるのかなと感じました」(原口武法さん)

STYLE100編集部

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