北欧から地球にやさしい暮らしを学ぼう(前編)
循環型経済 生物多様性

地球にやさしい暮らしをリードする北欧諸国の知恵を、私たちの生活にも取り入れてみませんか?今回訪れたのはスウェーデン発祥のホームファニッシングカンパニー、イケアの大型ストア、IKEA横浜。サステナブルな商品やアイデアを通じて、誰もが実践できる地球にやさしい暮らし方を提案しています。イケアの取り組みに触れながら、未来につながるライフスタイルを考えてみましょう。
スウェーデンの風土によって育まれた自然を大切にする精神文化
国連が支援する国際的な研究組織「SDSN」(持続可能な開発ソリューション・ネットワーク)による『持続可能な開発レポート2024』では、国連加盟国を対象に、SDGs達成度のランキングが発表されています。それによると、1位はフィンランド、2位はスウェーデン、3位はデンマークと、上位を北欧の国々が占めています(日本は18位)。
じつは今回のみならず、北欧諸国は常に上位に名を連ねており、国や企業のサステナビリティに対する積極的な姿勢と先駆的な取り組みは、文字通り世界をリードしているといえます。
そんな北欧スウェーデンを発祥とする世界最大のホームファニッシングブランド、イケアと横浜市が、2015年よりサステナビリティに関する連携協定を交わしているのはご存じでしょうか? 今回の記事では、2006年にオープンして以来、市民に親しまれている「IKEA横浜」(旧IKEA港北)を訪れ、北欧流の地球にやさしいスタイルを見せてもらいました。

IKEA横浜で、いわゆる店長職を務める菅野さん。ランニングを趣味にしており、フルマラソンのベストタイムはなんと3時間切り(!)とか。
まずはじめにIKEA横浜のマーケットマネジャー、菅野秀紀さん(以下 菅野さん)にイケアが掲げるサステナビリティの理念について伺いました。
菅野さん:イケアのサステナビリティは『①健康的でサステナブルな暮らし』『②クライメート、生物多様性&サーキュラリティ』『③公平性と平等性』という3つの柱で進められています。①は、サステナブルな商品を手ごろな価格で提供することで、より多くの人が健康的かつ地球への環境負荷が少ない暮らしを実現できるようにするということです。②は循環型社会を促進させるための取り組みですね。CO2の削減や、再生可能素材やリサイクル素材の活用、再利用やリサイクルを念頭に置いた製品デザインなどのほか、パートナー企業と協力しながら循環型社会の実現に向けた提唱活動も行っています。③は男女の機会均等をはじめ、いわゆる平等性や多様性の追求です。

従業員通路にはイケアの理念や歴史などがパネルで掲示されていました。各コワーカー(イケアにおける従業員の呼称)のサステナブルに対する関心も非常に高いそう。
イケアの創業者、イングヴァル・カンプラードの故郷であるスウェーデン南部のスモーランド地方は決して肥沃とはいえない地域であったことから、自然と共生し、限られた資源を有効に活用するという精神文化が育まれ、それがイケアの理念の原点にもなっているそうです。
提案するのは、暮らしを変えるたくさんのアイデア

店舗圏内で暮らすカスタマーをリサーチし、それをもとにしたペルソナ(架空の顧客像)を設定して制作されるルームセット。サステナブルをアイテム単体だけではなく、暮らしのスタイルとして訴求しています。
イケアといえば、家具やインテリア小物をレイアウトして実際の生活空間を再現した「ルームセット」と呼ばれるディスプレイ手法で知られています。IKEA横浜 コミュニケーション&インテリアデザイン部でインテリアデザイナーを務める北村 海さん曰く、そこには必ずサステナブルを意識したアイテムやアイデアが含まれているそう。

ルームセットは、インテリアデザイナーやビジュアルマーチャンダイザー、グラフィックデザイナーで構成される「コミュニケーション&インテリアデザイン」(通称コムイン)という部署が担当。IKEA横浜のコムインには北村さん(写真)を含め、17名ほどが所属している。
北村さん:例えば、こちらは『Living With Children』をテーマにしたルームセットです。小さなお子さんがいるファミリーをペルソナ(架空の顧客像)として設定したレイアウトなのですが、このソファをサステナブルなアイテムとして提案しています。また、キッチンでは内部の見える収納や容器をフードロスを減らすアイテムとして活用を推奨しています。食料の在庫がどれだけあるかを常に把握しておくことで、消費期限切れなどを防ぐことができるという提案です。あと、電子レンジに頼らず調理しようという意図で蒸し器を置いたり、分別しやすいようゴミ箱のレイアウトも工夫してあります。

商品説明のPOPと同じぐらい目立つように掲示されるアイデアカード。ソファのカバーを替えることで『長く使えるようになる』という、新たな視点を私たちに与えてくれます

アイデアカードに書かれているのはキッチン収納や収納容器を可視化することで得られるベネフィットについて。フードロスの低減と利便性の向上を両立する工夫として提案されています

ゴミの分別用バッグと共に掲示されるアイデアカードには商品の説明ではなく、「捨てる前に、再利用やリサイクルできるか考えましょう」というメッセージが記載されています。
POP(以下 アイデアカード)には、その商品のどういった部分が、あるいはどう活用することでサステナブルな暮らしにつながるかを分かりやすく伝えるメッセージが記載されています。そして、店内を見渡すと、ルームセットに限らず、売り場の至るところに同様のメッセージが掲示されていることに気が付きます。いずれも商品そのものの特徴をアピールするのではなく、その商品を活用することでもたらされる「ベネフィット(購入することで得られるメリット)」にフォーカスされている点が大きな特徴だと感じました。

こちらはサーキュラリティとパーソナライズがテーマのルームセット。インテリアにリユースやリメイクなどの要素を取り入れ、サステナブルかつ自分らしい部屋作りにつなげるという提案です。



菅野さん:サステナブルな暮らしの実現には、再生可能素材やリサイクル素材を使った商品を提供するだけでなく、人々の意識や価値観の変容を促すことも重要なので、そのきっかけになればと思っています。これは私個人の意見になりますが、サステナブルな暮らしの達成には、三つの段階を踏む必要があると思っているんです。まずサステナブルに関する『知識』を得ること。そうすると今度は日々の暮らしの中で『意識』するようになりますよね。意識が高まってくると、最終的には『見識』、つまり日々の暮らしの中で『あ、こうした方がサステナブルだな』とか、『こういう暮らしの方がより地球のためになるな』とか、自律的に考えて実践することにつながっていくと思うんです。

イケアは2030年に向けて、ビジネスを成長させつつ、サーキュラービジネス(循環型ビジネス)への転換を明言しています
サステナブルをすべての人へ
さて、地球環境の悪化がここまで深刻化した要因のひとつが、18世紀後半から始まった産業革命でもたらされた「大量生産・大量消費」を前提とする社会システムにあったことは言うまでもありません。イケアの親会社にあたるIngkaグループは、世界31ヵ国(2025年5月時点)で、400のイケアストア(大型店舗)と都市型店舗、174の様々な形態の店舗を運営しています。人々が豊かな暮らしを求めて消費するほど地球環境への負荷が増大するというパラドックスをどのようにクリアしていくのでしょうか。

白熱電球と比べて消費電力が少なく、寿命も長いLED電球の提案。なお、イケア横浜は横浜市とのサステナビリティに関する連携協定に基づき、市営団地の高齢者世帯を対象にLED電球への移行を進め、市内の省エネルギー化に取り組んでいます。
菅野さん:以前は、サステナブルというと一部の意識の高い人が取り組むみたいなイメージが強かったと思うんです。実際、サステナビリティを意識した商品というのは価格が高い傾向がありました。しかし、イケアでは地球にやさしい商品をなるべくお手頃な価格でお客様に提供することを目指しています。サステナブルな暮らしは、誰にとっても身近で実践できるものという認識が広まれば、大きな行動変容につながると思っています。
そのうえで、二通りのアプローチがあると菅野さんは続けます。
菅野さん:ひとつは、サステナブルなマテリアルを使って作られた製品をご提供すること。そしてもうひとつは、この製品を取り入れることで日々の暮らしがサステナブルなものになりますよ、というご提案の方法ですね。前者は再生プラスチックのような持続可能な素材を用いた優れた製品を手頃な価格で提供することで、お客様は特別に意識することなくサステナビリティに貢献できるようになる。後者については実利的な恩恵を提供しつつ、サステナビリティを実現する分かりやすい例として、白熱電球から消費電力の少ないLED照明への移行が挙げられます。他にはキッチン水栓もそうですね。こちらは内蔵されたエアレーター(整流器)が水に空気を含ませることで、使用感を損なわず水の使用量を削減できるというものです。お客様の暮らしをアップデートしつつ、地球にもやさしい製品を提供するというのは、昔から変わらないイケアの姿勢なのです。

エアレーターを内蔵した水栓。水道料金の節約という「実利的」なメリットを求めて購入したカスタマーであっても、結果的には地球にやさしい暮らしを実践することになります
なお、イケアはパリ協定に基づき、持続可能な社会を実現するための様々な目標を掲げています。その進捗については『サステナビリティレポート』として発表され、一般にも公開されています。それによると、すべてのプロダクトにおいて、開発の段階から、再利用、修復、再製造、そしてリサイクルを見据えてデザインすることを目指しているそうです。
IKEA横浜では、この他にも多くのサステナブルな取り組みを実践しています。意外にも気軽にはじめられるサステナブルな暮らし。皆さんの暮らしの中でもぜひ、いかがでしょうか?
後編では、大手家具店としては画期的な「家具買取サービス」や、いち早く導入した「EVトラック」による配送など、商品流通における先進的な試みを中心にご紹介します!
【情報】
・IKEA横浜
https://www.ikea.com/jp/ja/stores/yokohama
・イケアのサステナビリティ戦略
https://www.ikea.com/jp/ja/this-is-ikea/climate-environment/the-ikea-sustainability-strategy-pubfea4c210/
・毎日をサステナブルに
https://www.ikea.com/jp/ja/this-is-ikea/sustainable-everyday/