ロッカー型自動販売機で、食品ロスをなくそう

循環型経済

地域と連携して設置された、専門店のパンが買える自動販売機「食品ロス削減SDGsロッカー」とは?
横浜で「パンを売っているロッカー」を見かけたことはあるでしょうか。食品ロス・CO₂排出削減を推進する横浜市では、ロッカー型自動販売機を使って専門店のおいしいパンを廃棄される前に皆様へお届けする取り組みが行なわれています。

ロッカーの製造会社と地元のパン屋さん、横浜市が連携して取り組むプロジェクトの全貌を取材しました。

– 左から株式会社アルファロッカーシステム 代表取締役社長 和田寿成(わだとしなり)さん|横浜市脱炭素・GREEN×EXPO推進局 SDGs 未来都市推進課担当係長( SDGsデザインセンター)佐々木 結花(ささきゆか)さん

美味しいのに廃棄されてしまうパンを、ロッカーで販売

本来食べられるにもかかわらず捨てられている食品ロス。 令和4年度、日本の食品ロス量は年間472万トンに及んだとされています(令和6年度農林水産省発表)。
計算すると日本人1人当たりの食品ロス量は1年で約38kgとなり、1人当たりに例えると、おにぎり約1個のご飯の量を捨てているのと近い量になるそうです。
また、食品ロス総量の472万トンのうち食品関連事業者から発生する事業系食品ロスは236万トン(50%)といわれており、食品ロスが店舗・工場から発生しており、食品ロスを減らすためには飲食店や食品製造業においても工夫が必要だと分かります。

そんな食品ロスを削減するための新しい取り組みが横浜で始まっています。

駅や市内のスポーツ施設などに設置されている、食品ロス・CO₂排出削減を推進することを主な目的とした「食品ロス削減SDGsロッカー」の取り組みです。
活用方法は非常にシンプル。パン屋さんが消費期限内でありながらやむを得ず廃棄となるパンを、営業時間終了後に近くのロッカーに入れ、自動販売機とほとんど同じような仕組みでパンを販売します。

・毎日売り切れなかったパンの廃棄に悩むお店は、丹精込めて作ったパンを廃棄せずに済み、売上に変えられる。
・買い手にとっては、コンビニやスーパーで購入する菓子パンではなく、専門店でその日に焼かれた本格的なパンを身近な場所で気軽に購入できる。
・世の中全体から見れば、それは食品ロスの削減に繋がる。
・処分に伴う運搬及び償却に伴うCO₂排出を減らすことができる。

今年1月から開始したプロジェクトは買い手とお店にとってwin-winな取り組みかつSDGsの観点からも注目され、数多くのメディアでも紹介されています。予想以上に売れ行きも良く、毎日ほぼ完売する状態が続いているとのことです。

このプロジェクトの発起人となったのが、「SDGsロッカー」の設置・運用を担当する株式会社アルファロッカーシステムです。

– アルファロッカーシステムの和田さん。コロナ禍での気づきが食品ロス削減SDGsロッカーが生まれたきっかけとお話しいただきました。

当社は横浜市内に本社を構えており、日本初のロッカーを新宿駅地下に設置したコインロッカーのパイオニア企業として、これまでにも受け渡し用ロッカーなど、さまざまなロッカーの活用法を提案してきました。

そんな中2020年頃、ロッカーによる非対面型販売はコロナウイルスの蔓延によってさらに注目を浴びることになります。アルファロッカーシステム代表取締役の和田さんはこう語ります。

和田: 以前から卵や野菜を販売するロッカー型自販機は扱っていたのですが、コロナ禍になり、売り上げが増えたんです。

「ここまで売り上げが伸びたのは、もしかしたら、卵や野菜以外の何かが販売されているからなのかもしれない。誰が何を販売しているのだろう?」

と疑問に思い、調査しました。
そこで耳に入ってきたのが、千葉県のパン工場では敷地内で規格外品を販売しているという話です。横須賀市の老舗パン屋さんも駅や自社工場敷地にロッカーを設置していることを聞き、これからこの事業は伸びていくのかもしれないと可能性を感じました。

そこでアルファロッカーシステムは、横浜市交通局・脱炭素・GREEN×EXPO推進局・横浜交通開発・ヨコハマSDGsデザインセンターと連携し、2024年1月から市営地下鉄関内駅構内に設置したロッカーで売り切れなかったパンを販売する取り組みをスタート。最初は駅近くにある「縁道パン」が参加し、その後、南太田駅近くの「カッセルカフェ」が参加。現在は横浜銀行アイスアリーナで「エッセン」、馬車道駅で「VIE DE FRANCE Café馬車道店」のパンを販売するなど規模を拡大しています。

– 横浜高速鉄道みなとみらい線の馬車道駅の改札前にあるSDGsロッカー。VIE DE FRANCE Café 馬車道店のパンを、閉店後の20時半頃に販売している。

地道な努力と、偶然の先に。地元のパン屋と自治体が連携した地域連携プロジェクト

なぜ「パン」なのか?パン屋が抱える、廃棄の課題

そもそもパン屋さんのパンは、食品ロスが出やすいといわれています。賞味期限が短くその日に売れなければ廃棄しなければならず、一方で閉店間際まで店頭に多くのパンを並べておかないと、お客様がパンを選んで購入できないため、来店してもらえなくなるからです。
売り上げ予測から生産数を決めたとしてもぴったり売り切るのは非常に難しく、多くのパン屋さんが売り切れないことを覚悟で商品を製造しているといいます。

和田: さまざまなパン屋さんにヒアリングをする中で、毎日45Lのゴミ袋数個分の商品を捨てているお店もあることが分かりました。これらを消費者に届けることができれば、お店はこれまでよりもたくさんのパンを販売することができますから、食品ロスを削減し、さらに新しい売上に繋げることができるのではないかと考えたんです。

また、この課題はSDGs(持続可能な開発目標)の目標のひとつ「つくる責任つかう責任」にもあたります。
パン屋さんと、これまでは会社帰りにパン屋さんが閉店していてパンを購入出来なかった方をつなぎ「食品ロス・CO₂排出削減」という形で社会に貢献できることに魅力を感じました。

パンは気軽に購入できる身近な食品であり、常温販売できることもロッカーでの販売を始める上で大きなポイントだったと和田さんは言います。とはいえ、最初にパンを販売してくれる店舗を探すのには大きな苦労があったとのこと。

自分達の店舗で焼き立てのパンを提供してきたお店にとって、自分の店から商品を外に出して販売することには抵抗があり、難色を示すパン屋さんがほとんどでした。

和田: パンをお店の外に出す不安や新たな作業負担も加わるとご意見をいただいたものの、そもそも違う業界の会社から「こういうことをやりませんか」と提案されても、食品を扱っている以上二つ返事で承諾することは難しいですよね。

最初は協力いただけるパン屋さんが見つからなく、担当者は関内駅周辺にある20店舗以上のパン屋さんを回り参加を呼びかけました。

多くの人が足を運ぶ「駅」という立地をSDGsに有効活用

また、この取り組みを語る上で欠かせないのが、横浜市「SDGsステーション横浜関内」の存在です。

SDGsロッカーは、アルファロッカーシステムとパン屋さんなどの地域企業、行政の3者の連携によって運営されています。横浜市は行政として広報を行い、ポスターやSNSで情報発信し、SDGs及び脱炭素の普及に取り組んでいます。

実は最初に設置されたSDGsロッカーは、市営地下鉄関内駅で横浜市とヨコハマSDGsデザインセンター等が運営する「SDGsステーション横浜関内」の中に設置されました。横浜市は以前からSDGsへの取り組みを積極的に進めており、民間事業者と共同運営するヨコハマSDGsデザインセンターの運営など、全国の自治体の中でも先進的な「SDGs未来都市」として認められています。

佐々木: 多くの人の目に映る「駅の余ったスペース」という土地を有効活用して、SDGsをより多くの方に知っていただけないか…そんな想いから設置されたのが『SDGsステーション横浜関内』です。アルファロッカーシステムからの相談をきっかけにSDGsロッカーが常設されることになりました。

というのも、当初SDGsステーションはポップアップイベントを行うための場所として運用されていたのですが、一時的ではなく持続的な活用のために何か常設できないかと検討を行っていたんです。

偶然なのですが、そのスペースでは市民の皆さんに身近なSDGsの課題として食品ロスを扱いたいとも考えていたんですよ。そんな時にアルファロッカーシステムから相談があり私たちの希望する条件ともマッチしたため、私たちもすぐに設置に向けて調整させてもらいました。

「手軽に買える」だけじゃない!SDGsロッカー好評のワケ

こうして設置されたSDGsロッカーは「おいしいがもったいない。」のわかりやすいキャッチフレーズとともに大きな好評を集め、沢山の方々に購入いただいています。SDGsロッカーの中には24時間営業している施設に置かれているものもあり、近くにコンビニがないことから手軽に美味しいパンを買えることも人気の理由です。

– 「すぐに売り切れてしまうので『買いたかった!』と残念に思う声もいただくほどです」と和田さん

中でも印象的なのは、SDGsについて学校で学んだ子どもが「パンを買うことで、SDGsに取り組めた!」と喜んでくれたことだと佐々木さんは言います。

佐々木: 廃棄物を減らし、焼却時に発生するCO₂を減らすのももちろん大事なのですが、このパンを購入することで市民の皆さんがSDGsや脱炭素について考えるきっかけになることがとても有意義だと思うんです。

SDGsロッカーを目立つところに設置しているのも、それが理由ですね。仕事の帰り道や買い物のついでなど、皆さんが毎日通るような場所で販売を行うことによって、購入数を増やすだけでなく周知や啓発に繋がってほしいと願っています。

横浜から日本中へ!食品ロスへの新しいムーブメントを起こしたい

「食品ロス削減SDGsロッカー」は今後、パン以外の販売も視野に入れているといいます。

佐々木: 食品ロスが出ているのは、パンだけではありません。消費期限・賞味期限が近づいたお惣菜をはじめ、「箱が傷ついているから」「規格外だから」と廃棄されてしまう野菜や果物など、販売できるものはまだまだあるはずです。また、規模の拡大にも力を入れていくとのこと。

横浜市とヨコハマSDGsデザインセンターは取組を拡大するために、2024年7月に、ロッカーを設置する場所を提供する事業者、食品ロスになりそうな商品を販売する事業者、ロッカーを設置する事業者を、横浜市がつなぎ、マッチングするスキームを創設しました。それぞれの事業者を幅広く公募することで、事業者の皆様がお持ちの知識やノウハウ、設置場所を活用させていただき、様々な食品やロッカー形態に波及させたいと考えています。

和田: 今年度中には、当社の目標として市内30ヶ所まで設置箇所が増やしたいと考えています。数を増やしてオール横浜で発信を行っていけば、市外にもムーブメントが起きてくると思っています。来年度には全国展開も行い、2026年度には500ヶ所までロッカーを増やしていく計画です。

– 市営地下鉄関内駅にあるSDGsステーション。この場所でSDGsロッカーが初めてスタートした。

和田: 本当は食べられるのに捨てられてしまっていたものを着実に消費者のもとに届けられていることは、大きな意味があると考えています。

最初は手探り状態で、本当に三方良しになるのか分からない部分もありましたが、ここまでの取り組みでプロジェクトが間違いなくプラスな事業であることがデータとしても分かってきました。

廃棄間際の商品を売るということで躊躇される方もいるかもしれませんが、一歩踏み込んだことで食品ロス・CO₂排出削減に向けた良い循環が生まれたプロジェクトとしてこれからも私たちが発信・推進していくことで皆さんが勇気を出すためのエールになれば嬉しいです。

お得で、美味しくて、地球にも優しい。SDGsロッカーで食品ロスがない未来を

いかがでしたでしょうか。消費者・製造者・社会をつなぐことで各々の困り事を解決し、喜びに繋げるロッカー型自動販売機を設置するこの取り組みは今、各地に広がりつつあります。

SDGsロッカーからパンを購入することで、食品ロス・CO₂排出削減に貢献する。
もし購入できなかったとしても、SDGsロッカーの「おいしいがもったいない。」が目に入ることで脱炭素やSDGsに意識を向ける。

横浜で生まれたこんな新習慣が全国に広がれば、SDGsは私たちにとって日常となり、美味しく嬉しく社会をより良くすることができます!
皆さんもぜひSDGsロッカーを見かけた際には、商品を入れた人の姿を想像したり、購入したりしてみてくださいね。

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